テーマ: 「私の考えるプランニング(企画)とは」

     ・・・ 田中 尋真 (株式会社JHT、元本田技術研究所)

 

前回(2023年11月)の話題提供では、F1開発における目標設定と、プロジェクト推進について、私の経験をお話ししました。

「F1レースの車両技術開発における、目標設定とプロジェクト推進」

 

今回はその前に携わっていた、市販4輪車の商品企画にまつわる経験についてご紹介します。

1980年代に、スポーティーさや新技術で人気を博したHondaの4輪市販車は、1990年代初頭には、世間のRVブームに完全に取り残され、大いに苦戦していました。そこで、新たに商品企画の専任組織が立ち上げられ、手探りで様々な企画の手法・考え方を身につけながら、4輪ラインアップの見直しと、多くの新商品の企画承認、そして開発チームとの協働に漕ぎつけることができました。

 

近年コンサルタントとして、企業や団体の様々な課題解決にご協力する場合にも、この時の経験を元に自分なりに組み立てた構造的な考え方は、幅広く役立っていると感じています。


<配布資料>

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「68回P2Mクラブ-04/22」<発表資料>by田中さん
第68回 P2Mクラブ 話題提供 田中尋真 20250422.pdf
PDFファイル 1.5 MB

<講話・議論概要>                                           文責:岩下

 

 

<田中さん講話>

 

1990年代前半、F1の前職として商品企画部門の立ち上げにゼロから携わり、経験やノウハウがない中で企画を形にする過程で重要な気づきを得ました。P2M標準ガイドブックを読み解きながら、自身の経験との照らし合わせを発表し、意見交換をしたいと考えています。

 

大学ではコンピュータによる最適化設計を研究。ホンダ入社後は車両設計を経て、立ち上げ期の商品企画室でステップワゴン、CR-V、東南アジア専用車、S2000などの企画に携わり、市場調査からコンセプトメイキング、要件設定、実現可能性検討まで幅広く経験。個々の商品だけでなく、ラインナップ戦略や情報収集・分析の重要性を認識し、その担当となりました。

 

その後、モータースポーツ部門の立ち上げにも関わり、技術開発よりプロジェクト推進や交渉・調整、情報分析が中心となりました。第3期F1撤退後には論文集の編集長、モーター・スポーツ開発室時代の中間の一時期、特命研究室で本田の独自性や組織風土について研究し、新規事業における重要な要素を考察しました。

 

定年退職後、コンサルタント会社を設立し、技術系の話でも根本的な議論の必要性や人材育成、組織のあり方に関わるようになっています。

 

 

1970年代、ホンダは厳しい排ガス規制に対応する技術(初代シビック、CVCCエンジン)で自動車メーカーとしての足がかりを築きました。1980年代に入ると、斬新でスポーティーなデザインを重視し、一時的に人気を得て発展しましたが、1990年代初頭のRVブームでシビックの売れ行きが低迷。RVラインナップの少なさから苦戦し、三菱自動車に吸収される危機感すらありました。そこで、顧客離れの原因を「自分たちの都合の良いものばかり作っていた」ことと捉え、顧客視点での商品開発を目指す約20名のチームが発足し、混乱しながらも次に取り組むべきことを模索し始めました。

 

 

マーケティングとは単なる市場調査や広告ではなく、顧客に価値を提供し、顧客が求める価値を生み出し、効果的に届けること全体を指します。企業にとって、提供する価値への対価は事業の中核であり、その本質を見誤ると事業継続が困難になります。P2Mガイドブックにもあるように、価値創造マネジメントの仕組み作りが基本です。マーケティングは、供給側の視点(作れば売れる等)から、需要側の視点へと変化してきました。物が不足していた時代から、選択肢が増え、顧客にとっての価値に合うものが選ばれるようになったため、顧客視点が重要になったのです

 

1980年代頃まで主流だった製品指向は、もはや販売力だけでは通用しなくなり、顧客の価値観の変化に対応できない企業が出てきました。社会指向の高まり(SDGsなど)によって、消費者の購買基準も変化しています。ホンダの失敗は、製品指向から顧客指向への切り替えの遅れが原因であると言えます。顧客指向においては、顧客が真に求める価値を捉える必要があり、プログラムマネジメントの価値評価基準も顧客価値が重要な指標となります。特に戦略型プログラム(新商品開発など)では、製品そのものだけでなく、それに付随する付加価値を考慮すべきです。

 

ただし、顧客指向は、単に顧客の言うことを鵜呑みにすることではありません。顕在ニーズへの対応は当然なアプローチではありますが、限界もあります。重要なのは、顧客自身がまだ気づいていない潜在ニーズを深く掘り下げ、仮説を立て、差別化を図り、新たな価値を創造することです。「プロダクトアウト(供給者視点)」に対して、「マーケットイン(顧客ニーズ起点)」では、顧客の潜在ニーズの本質を見抜き、共に価値を創造する共創の側面が必要です。顧客の顕在ニーズにただそのまま応えることは、ある意味でマーケットアウトであり、マーケットインの考え方で顧客に入り込み、共に考える姿勢が重要です。

 

企業向け(BtoB)と個人向け(BtoC)ではマーケティング手法が異なり、顧客、重視点、検討期間、買い替え頻度、マーケティングのポイントに違いが見られます。BtoBでは組織が顧客で費用対効果を重視し長期検討される一方、BtoCでは個人が顧客で感情的要素が影響し短期・直感的に購入される傾向があります。BtoBでは決済者と利用者の双方への価値提供が重要となるのに対し、BtoCでは最終ユーザーへの直接的な価値訴求が重要です。自動車のような大量生産の個人向け耐久消費財は、普遍的な潜在ニーズを満たすBtoCの典型であり、潜在ニーズの中でも実態以外の価値を捉えることが重要です。ただし、顧客の価値分析と具体的な方法は、事業や商品によって大きく異なります。

 

B2Cの大量生産の個人向け製品において、比較的有効だった手法として、以下の3つを紹介します。

・STP戦略: 市場の中で、誰に、どのような価値を提供するのかを決めるプロセス。

・市場調査: 市場題材の価値分析の元になる情報の集め方と注意点について解説する。

・ラダーリング法: 価値を構造的に分析する調査方法。

顧客の潜在ニーズを知るため、具体的なシーンや欲求を元にしつつ、その背後にある価値を構造的に深掘りする手法。

 

 

「STP戦略」は、セグメンテーション(市場を分ける)、ターゲティング(どのセグメントに焦点を当てるか絞り決める)、ポジショニング(ターゲット顧客への価値宣言)というプロセスです。これはP2Mのミッションプロファイリングにおける価値の記述と類似しています。

 

セグメントやターゲット設定は、単に市場を狭めるのではなく、顧客一人ひとりの商品コンセプトへの理解と共感を得るためです。人の感性や共感は多様であり、誰にどのような感動や共感をしてもらいたいかを考えることで、コンセプトへの納得度が明確になります。顧客の考えや心に丁寧に向き合うために、具体的なイメージを特定し深掘りすることが重要であり、そのためにターゲティングを行います。

 

セグメントは顧客の分け方の一つで、ニーズや特性が類似した集団に分け、注力する集団を決めるのがターゲティングです。明確なセグメントが一度で決まるとは限らず、試行錯誤しながら、顧客データや行動分析を通じて、議論しやすいまとまりに絞り込んでいきます。セグメントの基準は、年齢や地域性から、価値観、経験、ライフスタイルへと変化しています。

 

次のステップは、各セグメントへの提供価値を明確にすることです。ポジショニングマップは既存の軸での優劣を示すことが多いですが、顧客が購入する理由には繋がりにくい場合があります。重要なのは、顧客の頭の中に独自の差別化されたイメージを形成することであり、そのためには従来の軸にとらわれず、顧客の潜在ニーズに合致する新しい軸を見つけ、その軸で明確な位置づけの違いを示す領域に特化していくことがポジショニングの本質です。

 

 

「市場調査」は顧客ニーズ理解のために行われ、定量調査(アンケート、統計分析)と定性調査(インタビュー、行動観察、覆面調査)に大別されます。定量調査は多数のデータから傾向や関連性を把握するのに適していますが、事前の仮説が必要です。一方、定性調査は少数の対象者から数値化しにくい情報を深く探り、特にデプスインタビュー(Depth Interview)行動観察は潜在的なニーズや新しい価値発見に有効です。ただし、市場調査を行えば必ず答えが見つかるわけではありません。

 

全体として仮説検証型のアプローチを取る際、良い仮説を立てるには、まずお客様への深い共感から潜在ニーズを探り出すデザイン思考が有効です。これにより、「こういう潜在ニーズがあるのではないか」という仮説を定義します。

 

その仮説検証には、実現可能なアイデアを次々とプロトタイプ化し、お客様に確認してもらうアジャイル開発に近い手法が有効とされます。しかし、この手法はトライアンドエラーを繰り返すため負荷が大きく、自動車のような場合は実地に試せない場合もあります。

 

したがって、アイデアを単なる思いつきではなく、意味的に統合した仮説として捉え、その仮説の検証方法をセットで考える必要があります。そうしなければ、マーケットインが機能せず、仮説の正しさを確認できません。

 

 

「ラダーリング」とは、抽象的な上位概念を聞き出すラダーアップと具体的な下位概念を聞き出すラダーダウンを駆使しながら、対象者の中の価値構造を探っていく調査方法です。 梯子を登ったり降りたりしながら探索するイメージです。構造的に価値を考える手法であり、デプスインタビューなどでも活用できます。人間の認知構造は、客観的な製品属性(機能)から、感覚的な意味、そして抽象的な価値観へと階層的に理解されています。製品属性がどのような感覚や感情を引き起こし、それが個人の価値観とどう結びつくのかを理解することで、顧客が何を重視しているのかを把握し、喜ばれる製品開発や提案に繋げることができます。

 

例として、お酒を飲まない初心者に対してラダーリングを行ったところ、「安い」「好みに選べる」といった具体的な価値から、「自分の好き嫌いを大切にしてもらえている」「褒められて嬉しい」「特別な気分になる」といった感情的な価値が導き出されました。さらに、初心者は「安心安全」「ほっとする」といった価値観を重視する傾向があるという仮説から、「自作カクテルのフルーツポンチ」という製品アイデアが生まれました。これは、コロナ禍において他者との共有が難しい状況でも、安全に楽しめるという価値を提供できる可能性を示唆しています。

 

このようにラダーリングを用いることで、製品開発者は顧客が語る言葉のレベルを構造的に理解し、表面的なニーズだけでなく、より深い価値観に基づいた製品やサービスを提供できるようになります。

 

 

「企画とは何か」について、企画には当たり外れがあり難しいと言われる理由として、以下の点が挙げられます。

・PDCAが回しにくい: 大量生産品と異なり、単品商品はライフサイクルが長く、その都度条件が変わるため、PDCAサイクルが適用しにくい。

・事例が少ない: 企画や開発の失敗事例は機密性が高く、公開されることが少ない。また、企画の失敗はマネジメントの失敗として隠蔽されることもある。

・分野ごとのアプローチの違い: 対象分野によって具体的なアプローチが異なるため、成功事例をそのまま応用することが難しい。

・前例のない取り組み: 企画は常に新しいことを行うため、同じ種類の対象でも同じ答えが出るとは限らない。

 

顧客に喜ばれる企画を生み出すためには、単なるベストプラクティスの模倣ではなく、企画の考え方の意味や構造を言語化・抽象化し、具体的な方法論に落とし込む必要があります。そうすることで、数少ない事例を有効に活用できるようになります。

 

P2Mの標準体系の中に、普遍的な企画の原則と方法論のガイドラインがどこかにまとめられているのではないかと思い、一生懸命読んでいるのですが、まだ完全に理解しきれていません。しかし、このような指針は昔から必要だと感じています。

 

企画を立てる目的は、現状よりも良い状態を社会に実現するためです。今までの延長線上では達成できない新しいやり方を考え、それを関係者に納得してもらうこと、ある意味で説得することが企画の目的ではないかと考えています。

 

当然ながら、単なる思いつきではなく、何か新しい価値や新しい経験の世界へ人を連れていくという、世の中に対して良い影響を与えるという大義や目的がしっかりとあることが重要です。今までの延長線上や常識の中ではできないことを実現するために、そこを踏み超えようというチャレンジ性、独自性がなければなりません。延長上で改善できるのであれば、それは企画ではなく計画になります。企画を立てるという意味では、やはり新たな切り口を考えてやっていくというところが、企画の醍醐味であると言えます。

 

芸術家が個人でアート作品を作るのとは異なり、企画には多くのステークホルダーが関わります。自分の満足だけではなく、お客さんに買ってもらわなければなりませんし、大量生産しようとすると、非常に多くの人が組織的に動く必要があります。そのベクトルを合わせ、協力してもらう必要があるのです。当然、お客さんにもその気になって購入してもらう必要があります。協力してもらうためには、個人では無理なことでも、誰かに協力してもらうことで実現できるのであれば、それを企画に含める必要があります。予算や人員の確保も、個人の力ではできないため、企画を立てる上で重要な要素となります。

 

P2Mの事業モデルでは構想検証フェーズに該当し、3Sモデルでいうところのスキームモデルプロジェクトに相当すると思いますが、私の個人的な経験では、この最後の説得作業の比率がかなり多いと感じています。逆に言えば、説得できないということは、それまでの検討がまだ不十分であるか、うまく繋がっていないということだと思います。結果として、本当に説得できるのかどうかを試行錯誤する部分に、多くの時間と労力を費やしましたし、非常に生々しい経験でもありました。

 

そう考えると、企画というのは、目的が明確であり、これまでと何が違うのかが分かりやすく、さらにそのやり方を採用することで何が実現できるのかという可能性が感じられるものであるべきです。そして、関係者に「是非やろう」と思ってもらい、決断を促せるものでなければなりません。これを完全に証明することは当然不可能でしょう。なぜなら、企画は新しい試みであり、前例のないことだからです。しかし、論理的な道筋がきちんと立っていることで、「なるほど、やってみよう」と納得してもらう必要があります。実際に進めていく中で、多くの未知の課題が出てくるでしょうが、「ここまで考え抜かれているのだから、きっと乗り越えられるはずだ、やってみよう」という、困難を克服する原動力となるような可能性を感じさせることが重要だと考えられます。

 

 

「商品コンセプト」:企画の中核となるもので、先ほどの説得作業などでも非常に役立ちます。実際、商品コンセプトという言葉はよく使われますが、表面的な情報として、商品のデザインやキャッチフレーズだけが注目されがちです。本来の商品コンセプトは、どのようなニーズが実現されるのか、そのために何が従来と異なり、どのような考え方に基づいてその価値が提供されるのかが明確に示されている、構造化された組み合わせです。それができる限りシンプルに凝縮され、ポイントを捉えていることが、説明する上で、相手が理解する上で非常に大きな力となります。この商品コンセプトをしっかりと詰めていくことが重要になります。

 

商品の特徴を際立たせることで、お客様は理解しやすくなり、差別化にも繋がります。大人数で開発を進めている際に、進むべき方向性が見えなくなったり、行き詰まったりした場合、新たな方法を試みる際に、明確な方向性が見えていれば、誤った手段を選ぶリスクを減らすことができます。大人数で正しい手段を選択していく際の判断基準、共有する判断基準にもなり得ます。予算や人員の承認を得る際、あるいは外部の方と協力してもらう際に、「こういう理由でお金が必要です」「こういう人材が必要です」「こういう協力をお願いしたい」と説明する時、その理由がすっきりとまとまっており、納得できるほどに練り上げられていれば、役に立つはずです。そのような商品コンセプトを作っていきましょう、ということです。

 

新商品を比較する際によく話題になるのがアイデアです。コンセプトとアイデアの関係についてですが、アイデアは単なる思いつきやひらめきではなく、何らかの課題を解決するための部分的で断片的な思いつき、つまり明確な目的を持っています。アイデアが全くのゼロから突然生まれることは稀で、多くの場合、既存の要素の新たな組み合わせであったり、視点を変えて別の角度から捉えることで、これまで見過ごされていた価値を発見し、課題解決に繋がる可能性を見出すものです。

 

 

コンセプトは、そうした一連のアイデアが組み合わさって形成される、筋の通った目的と実現に向けた道筋、いわばシナリオのようなものです。コンセプトが完成し、納得できる形になっている必要があり、アイデア同士が論理的に繋がっていない状態では成立しません。その繋げ方を従来とは異なる視点で行うことができれば、そこにアイデアが活きてきます。そうしたアイデアが見つかることで、コンセプトが成立し、明確なものとして出来上がります。

 

アイデアはどのようにして考えるのでしょうか。課題に直面した時、新しい組み合わせを見つけるためには、できるだけ多くの視点から考察することが重要です。類似性、関連性に着目し、別の分野、別の場所、異なる時代などで似たような構造や背景を持つものはないかを探します。今まで注目してこなかった影響や相乗効果などの関連性を見つけ、要素の組み合わせを再検討します。

 

制約条件を操作することも有効な手段です。特定の条件があるために繋がっていなかった場合、その条件を一時的に無視したり、極端な方向に振ったりすることで、これまで想定していなかった繋がりが生まれることがあります。実現に向けて制約条件そのものを変更する方法を見出すことができれば、制約条件が制約ではなくなり、これまで繋がらなかった要素を結びつけるという考え方も生まれます。

 

これを一人で考えると大変なため、集団でアイデアを創出します。集団で行うと、一人では思いつかないようなことが多くの人の知恵によって生まれます。個人の思いつきの限界を超えることができるのです。試してみる上でも、一人でできることには限りがありますが、協力すれば様々なことを試せます。協力するためには人に説明する必要が生じるため、自然と言語化することになります。「こういうことを考えている」「こんなものはどこかにないか」といった話をする中で、自分自身が何を言いたいのか、何が問題なのか、何に引っかかっているのかが明確になり、思考が深まりやすくなります。

 

これには条件があります。同じような考えを持つ人ばかりが集まっていると視野が狭まるため、できるだけ多様な経験や属性を持つメンバーに集まってもらうことが重要です。「何をやりたいのか」という目的をしっかりと共有しておかなければ、意見が集約されず、問題を突破するためのアイデアに繋がらず、集中力も低下してしまいます。

 

大人数が集まっても、上位下達のような関係で全員が萎縮してしまう状態では効果がありません。対等な関係で自由に意見や情報を共有し、体験や感覚も共有しながらやり取りすることで、発想の広がりが生まれます。既存の常識にとらわれず、相乗効果や関連性などから、これまでになかった新しい繋がりを見出していきます。これは、活気がない状態ではなかなか生まれないため、参加者が萎縮したり無関心になったりしないよう、ポジティブでリラックスできる雰囲気や条件を維持することが非常に大切です。

 

 

「ワイガヤ」ホンダでは、アイデア発想法として「ワイガヤ」という言葉を使います。そのご紹介を簡単に行います。アイデア発想手法というと、一般的にはブレインストーミングがよく知られていますが、ブレインストーミングとワイガヤには少し違いがあります。ブレインストーミングは、強制的にアイデアを絞り出すという考え方であるのに対し、ワイガヤは、集団的に創造するといった、アイデアが自然と引き出されてくるようなイメージです。

 

ブレインストーミングでは、とにかく多くのアイデアを出すことを前提とするため、他者を否定したり批判したりせずにどんどん発言することや、先入観を排除し、前提条件を与えずに自由にアイデアを出すことが推奨されます。一方、ワイガヤの場合は、ある意味で対照的であり、思いきった否定や批判も行われます。これは、そうすることでこそ本当の意味でのアイデアの広がりが生まれるという考えに基づいています。ただし、本気で議論を行うためには、参加者間の信頼関係が不可欠であり、そのような場と準備が非常に重要になります。この手法は、会社の文化や風土によって合う合わないがあるかもしれません。

 

プロセスで言いますと、ブレインストーミングはアイデアの質よりも量を重視する傾向が強いです。その後、これらのアイデアをどのように整理し、絞り込むのかという議論になり、トライアンドエラーで最終的に選別するという流れになります。どちらかと言うと、多産的で物理的な反応に近いプロセスです。

 

しかし、我々の場合は、よく考えた上で取り組む必要があります。何が本質的な課題なのかを深く考えなければ、ただ数を増やせば良いという誤解につながりかねません。「やってみないと分からないこと」については、実際に試してみることが重要です。これは、物事を深く理解するために不可欠な場合があります。実際に何が起こっているのかを丁寧に観察することで、これまでになかった視点や関係性に気づくことができるのです。これは、共同熟成価値反応的なプロセスを経なければ実現できないはずです。そのようなプロセスがうまく起こるように導いていきます。

 

ブレインストーミングでは、どうしてもアイデアの量は出るものの、質、特に想像の質が向上しないという課題がよく指摘されます。我々の場合は、質の高い、誰も見たことのないワクワクするようなアイデアを生み出すことを目指しており、それは天才のひらめきではなく、凡人でも力を合わせれば天才を超えることができると信じて取り組んでいます。このプロセスは、モチベーションを高め、個々の発想力を向上させるという側面も持っています。

 

そのような雰囲気を作り出すためには、先ほど申し上げたことと重複しますが、目指す目標が一つになっていることが重要です。それに加えて、多様なメンバーが対等な関係を築き、できる限り情報を共有できる環境を整え、体験や情報を共有し、共感しながら意見交換を行うことが大切です。対等な関係という点に関連して、ユーモアや笑い、好奇心をできるだけ失わないように、常にそのような雰囲気があるように心がけてください。

 

そうやって、アイデアを見つけ、それらを繋ぎ合わせてコンセプトを作り上げます。そのコンセプトが狙い通りの価値実現に繋がり、さらに実現するための手段も含めて整合性が取れ、見通しが立った状態になれば、企画は一定の形を成したと言えます。

 

これは企画がちゃんとできているかどうかをチェックする際に、こういう観点で確認していくことが必要です。目的が明確になっているか。なぜ作るのかがよく分からないのに、何かを作ったという話では困ります。当然、企業が大切にしている理念と全くかけ離れたものを作っても、企業として実施することは難しいでしょう。目的と理念がきちんと整合しているかを確認します。それから、商品の存在理由が明確になっているか。なぜ今これが必要なのかという説明ができるかどうかです。先ほど申し上げたセグメンテーション、ターゲッティング、ニーズの把握を行い、さらに具体的な顧客の感覚や使用状況を踏まえた上で、価値提供のポジショニングをしていますか。この辺りの繋がり方、整理の仕方、あるいは深掘りの程度が十分であるかということです。それがどのように実現できるのかという、不可能を可能にする道筋がきちんと立っているかということを重要視してください。

 

これは良いだろう、こういう風にやりましょう、ということで進めるわけですが、本当にそうだったのか、思い通りにうまくいったのか、顧客がきちんと反応してくれたのかを最終的に確認しなければなりません。リードタイムが短く、投資が小さい商品であれば、地域限定やテストマーケティングといった手法も有効です。Webを使ったテストマーケティングが最近多いのは、そのような小回りの利く商品の場合、それを利用して確認しながら軌道修正や検証を進めることができるからです。そうはいかない商品の場合は、より深いレベルでの分析と、なぜそのような企画にしたのか、なぜそのような結果になったのかということをきちんと記録しておき、顧客の反応からどこが当初の想定と異なっていたのかを明確にし、そこを改善しないと品質はなかなか向上しません。そのようなプロセスを繰り返していきます。

 

最後に結論なのですが、色々と試行錯誤してきた中で、自分なりに考えていたこととP2Mの標準体系を比較してみましたところ、専門領域や経験によって同じ用語でも定義の解釈に違いが見られる点はありましたが、考え方の枠組みとしてはほとんど重なり合う部分が多く、少し安心しました。しかし、実際にこれを実践しようとした場合、どのように企画を進めていくのかという点については、やはり新たな価値創造であり、制約条件もその都度異なるため、手探りで進めざるを得ない状況が必ず出てくるだろうと考えています。

 

計画段階での精度はそれほど高くできない部分が当然出てきます。そのため、修正ややり直し、あるいは臨機応変な対応ができるような余裕を持たせておく必要があるでしょう。また、目的を見失わないように方向性を明確にしておきつつ、バックアップ案まで用意しておかなければならない場合も当然出てくると思います。その際に重要なのは、方向性を見失わないことと、ある程度の柔軟な対応が可能な状況を維持しておくことです。したがって、企画時点での検証をどこまで行うのが適切なのかという点が、改めて考え直してみてもまだ明確になっていません。ケースによって検証の度合いを使い分けたり、あるいは基準を作ったりするためのヒントやポイントのようなものが見つかれば、さらに自信を持って試行錯誤し、新たな挑戦をすることができるのではないかと感じています。

 

頭の中で考えてきたことをお話しましたが、必要でしたら、どのような場合にこのような考えに至ったのかという事例をお話しすることも可能です。以上です。

 

 

<参加者懇談>

 

大変興味深いお話をありがとうございました。様々なご感想をお持ちのことと思います。どのようなことでも結構ですので、ぜひご意見をお聞かせください。ご質問でも構いません。

 

・(参加者)先ほど議論された定量調査・定性調査の問題点に関連して、仮説思考は一般的にPoC(概念実証)、つまり仮説検証と同じ意味合いで理解して良いと考えます。日本では仮説検証が最終成果に繋がらず、仮説で終わってしまうケースが多いと感じています。

 

私の会社ではデザイン思考を革新的な発想を生む重要な手法と捉え、それを用いたPM研修で収益を上げています。

仮説検証において、そもそもどのような仮説を立てるかが重要です。AIは既存の大量データから学習して結果を出力する傾向があるため、物事をこれまでとは異なる視点や概念で捉え、新しい発見をしようとする際に、AIから有益で創造的な提案が出てくることは難しいのではないかと感じています。

 

⇒(田中さん)人間の得意な領域ではないかという意味で、デザイン思考のアプローチが注目されているのだと思います。デザイン思考は、あまり理詰めで考えるのではなく、感覚的な部分、例えば共感という感覚的な反応を基点にして、「どうすればその感覚が実現するのか」「どうしてそう感じるのか」ということを思いつき、捻り出すのだと思います。この「思いつく」「気づく」というプロセスは、人に説明したり、再現したりすることが難しいと感じています。そのため、人間中心でデザイン思考を進める際に、乗り越えなければならないハードルになっているのではないでしょうか。

 

 

・やみくもに試行錯誤を繰り返すだけでは、お客様が納得する結果には繋がりません。お話があったように、明確な狙いを持って考え、実行し、その結果を検証するというプロセスが不可欠です。そうでなければ、同じ問題を何度も繰り返すことになり、無駄な試行錯誤に終わってしまいます。より構造的に前進するためには、「考える」というアプローチを重視する必要があるのではないでしょうか。

 

⇒先ほどご紹介したラダーリングは、ある意味で、顧客の深層心理をある断面で捉えるために少し役立つのではないかと感じています。しかしながら、AIにラダーリングを実行させるのは非常に難しいようです。最近のAIであれば可能になっているのかもしれませんが、その概念をAIに学習させるのはなかなか困難です。そこが今後も1つの重要なポイントになると考えています。

 

 

・私たちが会社で実践したデザイン思考は、課題を抽出し、解決策のアイデアを生み出すものです。このプロセスには人間中心のアプローチが不可欠であり、メンバーがどのように関わっていくかが非常に重要になります。

 

⇒おっしゃる通り、個人の能力や感性、経験値、あるいは置かれている環境によっても大きく左右されると思います。そういった個々の潜在能力を最大限に引き出すことが、非常に重要なマネジメント領域だと考えています。

 

 

・思考方法としては、デザイン思考や川勝さんのデック思考があります。さらに、アート思考やデザインドリブンイノベーションという思考法も存在します。その中で、常識的なものや非現実的なものを排除するのに特に適しているのは、マツダ自動車が行っているマツダのデザインカー戦略です。マツダはアート思考を重視し、お客様の声は聞かないそうです。お客様の声や市場トレンドを直接的にはデザインに反映させないという手法で、素晴らしい車を生み出しています。このようなアプローチもあるのかと驚きました。これは、ビジョンとデザイン戦略が重要となるという考え方です。

 

考える価値、追求する価値がしっかりと定まっており、ニーズやお客様との共感というよりも、あるべき姿を極めていくという考え方です。気になるのは、これまで市場調査や顧客のニーズ調査の話を聞いてきた中で、このようなアート思考、つまりマツダのような全く新しいデザインカーの戦略を、ホンダでは採用していないのでしょうか。

 

⇒ある意味、先ほどお話しした80年代に比較的うまくいっていた時は、それに近い状況だったのかもしれません。FFでありながら、ぺたんとしたものすごくワイド&ローな、それまで見たことのないような、しかも誰もがかっこいいと思えるであろう形をキーポイントにして、実際にそこを目指した結果、当時のプレリュード、アコード、シビックなどが全てその方向に寄っていきました。

 

会社全体として、そのような統一されたデザイントレンドを持っていたところは当時あまりなかったため、国際的にもデザインとしては評価された事例だと聞いたことがあります。しかし、そのデザインがずっとお客さんに通じ、共感を得られたかというと、少し違ったというのが以前お話しした90年代あたりのことです。

ですから、「極める」というのは、ある意味、突き詰めてその一点を極めるという意味では非常に大事な考え方であり、発想の仕方だと思います。しかし、それが全てなのか、万能なのかと言うと、少し疑問が残ります。ケースバイケースだとは思いますが、ぴったりとハマる場合もあると思います。

 

 

・私はプロダクトマネジメントの研究をしています。プロダクトマネジメントとは、プログラムとプロジェクトを統括するような上位の概念です。私がプロダクトマネジメントについて学んだのは、外資系のコンピューター会社に在籍していた時でした。そこでは、製品開発における最初のアイデア創出から改善に至るまでの継続的なプロセス全体をプロダクトマネジメントと呼び、私はコンピューター製造に携わっていました。その後、転職した会社では、プロダクトマネジメントは主に製品開発の文脈で実践されていました。

 

私がプロダクトマネジメントに関心を抱いているのは、PMBOKにおけるPM(プロジェクトマネージャー)よりも上位の概念であるにも関わらず、日本国内での認知度が低いという現状があるからです。昨年7月、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が突如として「DXスキル標準」を発表しましたが、その中にプロダクトマネジメントの項目が含まれていました。しかし、その下層構造を見ると、プログラムマネジメントは記載されておらず、プロジェクトマネジメントのみが示されていたのです。

 

プロダクトマネジメントはプログラムマネジメントとプロジェクトマネジメントを統括する役割を持つとされているにも関わらず、このような構造になっているのは問題ではないかと感じ、IPAに進言するための資料を作成したことがあります。ホンダにおいては、商品企画の段階で、プロダクトマネジメント、プログラムマネジメント、プロジェクトマネジメントといった役割を担う部署や担当者は存在しているのでしょうか。

 

⇒ホンダの場合、開発の総責任者として、商品の世の中への打ち出し方を含め、全てを統括するプロジェクトリーダーがいました。ただし、それは元々開発部門の経験を持つ研究所の人間が担っていました。しかし、それだけでは、セールス、エンジニアリング、アフターサービスなどを含め、本当にその価値を消費者に届け切り、製品の全寿命にわたってその価値を維持できるのかという点が課題として挙がってきました。

 

そこで、より一段高い視点から全体を統括する役割の人を立てる必要が生じました。その結果、ラージプロジェクトリーダー(LPL)のような自動車開発の代表という位置づけの、さらに上位の統括者を後から設置するという流れになりました。その統括者がどこまでの範囲を、どこまで的確に見ることができていたのかは難しいところですが、やはり全体をまとめて見る思考や視点がなければ、各部門の都合によって歪みが生じ、当初目指した製品価値の実現が難しくなるのではないかと考えられます。

 

そうした全体を俯瞰する視点は不可欠です。しかし、どのような人材を配置すれば、その意思が隅々まで行き渡るのかという点は非常に難しい問題です。そこには、何らかの共有ツール、考え方、方向性、あるいは判断基準などの指針となるものがしっかりと存在しなければ、当初の思いを遂げることは難しいと感じています。

 

 

・私がプロダクトマネジメントの定義について調査した結果、PMA(Project Management Association)はPM(プロジェクトマネージャー)を主な対象としているため、どうしてもプロジェクトマネジメントに焦点が当たりがちです。一方、プログラムマネジメントは組織の戦略と現場のプロジェクトを連携させる役割を担っており、そこまでで手一杯なのが現状です。 PMAJ(Project Management Association of Japan)では、日本においてもプロダクトマネジメントの認知度が徐々に高まっていることを認識しています。IPA(情報処理推進機構)がDXのスキル標準を作成する際にも、連携しているPM(プロジェクトマネージャー)との関係性について議論されることはありませんでした。

 

ホンダの商品企画に関わる全体をマネジメントする担当者から始まり、製品が開発され、改善され、市場に出ていくまでの一連の流れ全体をしっかりと見る役割、それがプロダクトマネジメントであり、その担当者をプロダクトマネージャーと呼びます。世界では、プロダクトマネージャーというタイトルの人数は106万人に達しています。これは、PMP(Project Management Professional)の資格保有者数(約157万人)よりは若干少ない数字です。 このように、プロダクトマネジメントやプロダクトマネージャーの重要性が高まっているにも関わらず、その知名度が低いままで良いのかというのが私の悩みです。何か良いアイデアはないでしょうか。

 

⇒言葉の定義が微妙に異なっているのではないかと感じています。プロダクトマネージャーという言葉自体は同じでも、意味するところが海外と日本とで少しずつ違っていたり、あるいは個々人で思い描く責任範囲や、見ている・考えている範囲がかなり異なってきているのではないでしょうか。

 

例えば、個々の商品の開発責任者を、単にプロダクトのマネジメントを行っているからプロダクトマネージャーと呼んでしまうと、開発だけに特化しているマネージャーでも、「一応プロダクトをやっているから」という理由でプロダクトマネージャーと呼ばれている人もいそうです。一貫した価値の提供という意味でのプロダクト、つまり、企画から開発、販売、そしてその後の改善まで最後まで面倒を見る、あるいは会社の方針とも合致させて強みとして推進していくようなところまで責任を持てる人は、それほど多くはないように思います。

 

言葉の定義は非常に難しいです。定量調査を実施すると数字は出てきますが、その数字が一体何を意味しているのだろうかという点が、定量調査の限界でもあるように感じています。何を確かめたくて質問しているのかという、その言葉の捉え方の違いによって、認識の齟齬が生じるリスクを最近強く感じています。この点も含めて、真の意味でプロダクト全体をマネジメントする方が、どのような人で、どのくらい存在するのかという点を、少し丁寧に調べてみたいとは思います。

 

 

・米国のデロイトの定義、ハーバードビジネスレビューの論文、そしてPMBOKガイドの第7版にも、実はプロダクトマネジメントに関する記述が見られます。それぞれの表現には独自性があるものの、共通して言えるのは責任範囲についてです。それは、製品開発の最初のアイデア出しから最後の改善に至るまでの継続的なプロセス全体を、体系的に捉えるものです。

ハーバードビジネスレビューでは、プロダクトマネジメントを「顧客に価値を提供し、自社のビジネス目標を達成するための製品開発における包括的な活動」と定義しています。田中さんがこれまで携わってこられたような、企画に関わる全体を仕切る役割の方が、まさにこのプロダクトマネジメントに該当するのではないでしょうか。

 

 

・ワクワクするようなお話を伺わせていただきありがとうございます。建築の世界で「プラン」というと、一般的には平面図のことを指します。それは、建物の計画を具体的に示すための図面です。その他にも、建物の断面を示す断面図や、外観を示す立面図といった種類の図面が存在します。

 

シンプルな平面図は二次元で表現されるため、物事を考える上で何らかの軸が必要になります。どのような軸を立てて計画を進めていくのか。最初に「企画」という言葉をいただいた時、人間がその世界を自らの手で作り上げていく、その準備をすることが企画なのだと感じました。まず、その根本的な意味が理解できました。

 

構造的に価値を考えることや、意味的に統合した価値の検証というお話は、システムズエンジニアリングと非常に共通する部分があるように感じました。特に、意味的に統合した仮説の検証という点においては、要求と機能を詳細に落とし込み、それらの機能を統合して検証するために、再度要求定義や機能定義に戻るというループがシステム全体の中に存在します。やはり企画というものは、再利用可能であり、再現性がないと、企画というプロセス自体が関係者に深く訴えかけることは難しいと思います。

 

そういった意味では、構造的に価値を考えるということは、アーキテクチャとしてその価値を捉えるような仕組みも実現可能になるということです。その実現可能なビジョンをどのように具体的に形作っていくのかという仕組みとしてしっかりと捉えていかないと、企画というものの意味が誰にも正確に伝わらず、検証することも不可能になり、結果として実行に移すことができません。

 

そういった様々な点を色々とお話を伺いする中で、「なるほど」と深く納得し、少し鳥肌が立つような感動を覚えました。私は現在、愛媛大学のデジタルイノベーション・デジタルアントレプレナーの講座を受講し始めました。企画を単なるアイデアに留めず、事業変革などの具体的な企画として考えなければならないというスタートラインに立った今、今日のお話は本当に楽しく、示唆に富んだものでした。今日のお話だけでも、私自身一つのプレゼンテーションができそうな感触を得ています。

 

⇒「プラン」「プランニング」は英語では計画と企画の両方の意味で使われますが、私は計画と企画はかなり異なるものだと考えています。先ほど申し上げた再現性、つまり見通しが立っているかどうかという点が重要になります。

 

「こうすればこうなる、なるほど、これならうまくいきそうだ」という見通し、企画の「企」という字は、まさに先を見通すという意味を持っているようです。そう考えると、どうすればその先が見通せるのかという話になります。どんなに綿密に実現方法を検討したとしても、ベクトルの方向性を見誤ってしまうと、その企画が価値として成立するかどうかは見えてこないのではないでしょうか。

 

そこで重要になるのが、構造的な価値分析と、その価値が実際にどのようにして生まれるのかという考察です。答えは一つではなく、様々なやり方がありますが、「このやり方ならうまくいくのではないか」という見通しを持つことが大切です。これは、多くの案を出して効率的に一つを選ぶというアプローチとは少し異なります。今まで繋がらなかった要素を、新しい視点を取り入れることで、まるでワープのように結びつけ、それによって今まで見えなかった新しい可能性を示すブリッジ、つまり繋がりを生み出すのです。そこに、人を惹きつける力があると感じています。

 

私がそれを良いと思うのは、確固たる証拠はないけれど、「これはきっとうまくいく」と強く訴えかける何かがあるからです。それが人間の場合、違和感や感覚といった曖昧なものとして現れることもありますが、もう少し深く考えると、意味的な繋がりや、自身の過去の文化や経験から生まれるパターンの中に、何か道筋のようなものが存在するように思います。

 

 

・繋がりという点で言えば、システムズエンジニアリングにおけるエマージェントプロパティー、つまり創発特性が挙げられます。これは、個々の要素間の繋がりから、当初は想定していなかった特性が生まれる現象です。部分の貢献の単純な足し算が全体の貢献にならないという点で、物理的な反応とは異なります。むしろ、化学反応のように、何らかの異物が加わることで、これまでとは全く異なる性能が現れることがあります。

 

⇒今までとは全く異なる異物が投入された瞬間に化学反応が起こり、それによって従来の層とは異なる状態へと転移していく、つまり相転移が生じ、それによって世界が変化していくという見方は、まさに仰る通り、化学反応的なものなのかなと、少し不思議な感覚を覚えます。

 

 

・自動車業界のように、動力源がエンジンから電気へと変化する世界的な潮流と、アジア、アメリカ、ヨーロッパといった地域によって異なる要求事項に対応しなければならない状況において、共通化できる部分と地域ごと、あるいは国ごとに設計、開発、適用を変えなければならない場合、企画や業務を進める上で何か特に注意されてきたことはありますでしょうか。

 

そのようなソリューションを手掛けていると、個別の事情を非常に重視しがちですが、自動車のように広範囲に展開し、かつ地域ごとのニーズを考慮する必要がある場合、共通化と個別化という二つの要素のバランスをどのように取ることが正しいとお考えになってこられたのか、その点について少し教えていただきたいと思います。

 

⇒先ほど申し上げたように、ある意味で商品のラインナップであったり、あるいはその価値基準、優先順位のようなものも出てくると思います。自動車は意味的なものも含めると、相当多くの軸、機能、価値などを含んでいます。

 

言葉の定義の話ではありませんが、かつて「走行安定性」という言葉が出てきました。英語では「stability」と言いますが、日本語では「安定性」と訳します。しかし、どうも話が噛み合わないのです。アメリカ、ヨーロッパ、日本の開発者が話し合っているのですが、それぞれの言うことが異なっています。そこで、なぜそのような違いが生じるのかを深く掘り下げてみました。

 

アメリカ人の言う走行安定性というのは、「手を離したら車がまっすぐ走る」ことでした。その理由を尋ねると、アメリカの道路は幅が広く、ほとんどが直線であるからとのことでした。しかも走行速度は55マイル程度で、それほど速くありません。日本よりは少し速いですが。そのような環境では、とにかく何もしなくても車がまっすぐ進んでくれることが最も楽で安心感があり、それが彼らの考える安定性でした。

 

一方、ヨーロッパではアウトバーンのように速度無制限の区間もあり、山道などでも多くの人がかなりのスピードで走行します。限界まで走ることが一般的です。高速で移動することの価値が非常に高く、しかも道路幅は比較的狭く、カーブが多いのです。そこで彼らが言う安定性とは、「手を離したらまっすぐ進む」こととは全く異なり、むしろ狙った走行ラインを維持し続けられるかのような安定性なのです。レーシングカーなどがまさにそのような安定性を求めています。ある意味で、敏感性、つまり車両が機敏に反応することと、操作に対する反応の線形性(リニアリティ)が両立していなければ、彼らは安定しているとは言いません。

 

では、日本人の言う安定性とは何なのでしょうか。日本は道路幅が狭く、曲がりくねっていますが、走行速度は比較的遅いため、路面の凹凸や外部からの影響によって車体がふらつかない、そのような特性が非常に重視されます。そのため、ヨーロッパの車とは乗り心地が全く異なるのです。

 

少し前に思い出したのですが、言葉で定義すること自体が混乱を招いている状況であり、さらにそれは先ほど述べたような環境の違い、これまでの使い方の違いという背景が全て異なっていることに起因します。そのような状況下で、「こういうことが重要だ」という構造、脈絡を持っているからこそ、彼らはその価値をずっと大切に追求してきて、その結果、そのレベルが非常に高くなっています。逆に言えば、他の観点から見ると、全く異なる方向へ進んでいるように見えることもあるでしょう。

 

地域性という意味では、それぞれの現地の状況に合致していなければ全く的外れなものになってしまう可能性があります。しかし、「狙い通りに車が動く」ということは、その狙いが何であるかは別として、普遍的な価値です。思った通りに動いてくれる車は、怖くなく、疲れないはずです。そのように感じる程度には多少の差があるかもしれませんが、やはりその辺りの意思に対する反応の素直さのようなものは、基本的な性能としてしっかりと高めておき、それをどのように活用するかは、それぞれの環境に応じて調整し、使い分けられるようにすることが、より地域に合った製品を生み出す上で重要なのではないかと思います。

 

日本は現在、アメリカや中国の標準で自動車が製造されると、車体が大きくなりすぎて、軽自動車以外は使いにくい状況です。それはやはり、日本の道路環境や使い方と合致していないためでしょう。自動車としての基本的な性能は高いのかもしれませんが、顧客のニーズや価値観とずれが生じているため、その点をうまく調整する必要があります。

 

そのような基準や、それらを適切にバランスを取りながら判断し、意思決定を行う担当者がいなければ、一生懸命開発しても顧客の真のニーズからかけ離れた製品になってしまいます。

 

 

・トランプ大統領が日本にはアメリカ車が走っていないと発言していますが、もしアメリカのメーカーが日本のマーケットのことを十分に考慮して製品開発を行っていれば、それなりに日本で売れる車を作ることができるのではないかと思います。彼らは、どのような企画プロセスやマーケットインの発想で製品開発を行っているのでしょうか。それが、アメリカ車が日本でなかなか売れない要因となっているのではないかと考えています。もし何か見解をお持ちでしたら、ご教示いただけますでしょうか。

 

⇒おそらく、彼らが考える車や、彼らの考える偉大なアメリカという概念には、私たちにはまだ理解しきれないような、ものすごい土壌、文化的な側面も含めた基盤があるのではないでしょうか。

 

そう考えると、それが世界標準であり、世界の中心となる考え方だと捉えていると、疑問、多様性、地域性といった視点への切り替えが難しいのかもしれません。良い意味で、地平線の向こうまで続くアメリカという環境に身を置いていると、それが当たり前になっている可能性もあると感じます。

 

日本も、ある意味でガラパゴス化している側面があり、日本人が当たり前だと思っていることが、世界標準から見るとそうではないと言われることもあるでしょう。

まず、「少し違うかもしれない」と気づき、考えてみることが大切なのではないでしょうか。困ったこと、ショックを受けたこと、失敗したことなどを通して、「このままではいけない」「この人たちは私たちと基本的な考え方が少し違うことがある」と想像力を働かせることがポイントになるように思います。

 

日本は日本で作れないものもありますが、アメリカという市場の中でアメリカの人々に受け入れられる価値を、自分たちができる範囲で懸命に探したからこそ、それが通用したのだと考えられます。その点を意識して探すという姿勢を持たないと、元々はマーケットインで作っているつもりでも、他の市場にとってはプロダクトアウトになってしまう可能性があるのではないでしょうか。

 

 

・今回の話を聞いて、2週間前のNHK「プロジェクトX」で本田宗一郎のF1挑戦が取り上げられたのを思い出しました。その時感じたのは、もし本田宗一郎が生きていたら、PM(プロジェクトマネジメント)の形式的な管理手法にこだわらず、「本田流でやる」と指示したのではないかということです。田中さんがPMの観点から丁寧に説明してくださったのは理解できますが、本田宗一郎のような強いリーダーシップを持つ人物であれば、独自のやり方で進めるというメッセージを強く発信しただろうと感じました。

 

また、企画デザインについては、B2C(一般消費者向けビジネス)とB2B(企業間ビジネス)で異なる側面があると考えられます。顧客に価値を提供する上で、顧客の世代によるニーズの違いを考慮する必要があります。短期的な売上・利益を確保するためには現在の顧客を重視する必要がありますが、市場が飽和している場合、そこに固執すると将来の顧客に対応できなくなる可能性があります。

 

企画構想の面では、最初から十分な戦力(たとえば連合艦隊)を揃えておきたかったという後悔があります。BtoBで顧客に深く関わるソリューションを提供してきた結果、次の段階に進むための新しい主力となる部門(第一艦隊)をもう一つ持つべきだったと感じています。既存の事業と新しい事業を明確に分けなければ、全てを一つにまとめることは難しく、混乱を招くでしょう。

 

しかし、新しい事業にリソースを割こうとすると、既存の顧客から不満が出る可能性があります。「自分たちのことを軽視するのか」というように。半導体製造装置の例を挙げると、100台納入できるところを99台にすると、取引停止になりかねません。B2Bの世界では、要求水準が非常に高く、融通が利きにくい場合があります。会社としては、一部のリソースを将来のために使いたいと考えても、既存顧客の要求に応えざるを得ない状況があるのです。

 

今日の話を聞きながら、企画構想を進める上でのこの難しさ、特にB2Bならではの難しさを感じました。これは自動車業界と我々の業界の違いであると同時に、本田宗一郎という人物の強い信念を改めて感じさせるものでした。同様の強烈なリーダーシップを発揮した人物としては松下幸之助が思い浮かびますが、水道哲学のような独自の哲学で会社を牽引したという点で、単なる改善や改革とは一線を画していると感じます。そういう意味で、ホンダという会社はやはり素晴らしいと思います。

 

「プロジェクトX」を見て私が考えた結論は、ホンダがF1から撤退し、再び成功を収めたという組織風土や、それを可能にするモデルをしっかりと語り継いでいくことが重要だということです。さらに、3回目のF1参戦時にも同じような成功を再現できるような体制をいかに構築するかが、企画の本質であり、ビジネスとしての企画の基盤となるのではないかと改めて感じました。

 

⇒実はホンダは現在、第4期と第5期の間のF1活動を行っています。私が関わっていたF1は第3期で、一般的には最も失敗したと言われています。

当時、以前F1の話をした際にも少し触れたかもしれませんが、第3期がなぜ失敗したのかという点についてです。やはりいくつかの問題があり、認知バイアスが高く、過去の成功体験から抜け出せずに考えすぎてしまったことなどが挙げられます。相手がいることなので、相手がどのように進化しているか、どのような可能性を秘めているかを十分に考慮せず、「自分たちならこうすれば大丈夫だ」というような、ある種の驕りがあったように思います。さらに、それが精神論のようになり、「うちならできる」といった根拠のない自信が先行してしまい、結果としてうまくいかなかった。そこからなかなか考え方を変えられなかったという経緯もありました。

 

今回成功したと言われている第4期のF1活動も、立ち上げ当初は大失敗しています。なぜホンダは、これほどまでに同じような失敗を繰り返してしまうのかと言うと、根本的な部分をきちんと理解していないからではないでしょうか。経験は確かに個人の内部に蓄積されますが、その経験がどのような意味を持っていたのかを自分の頭で深く考察していないため、他者の成功事例を安易に踏襲しても、それが通用しないということが起こり得るのです。実際、本田宗一郎が空冷エンジンに固執し、会社を傾かけさせたという過去の事例もあります。

 

それを「そうではないのではないか」と必死になって考え抜き、真剣に議論した結果、「そこまで言うなら、やはり両方の方式を試してみるべきだ」と言わせた、あるいはそれを許容した当時の経営陣の姿勢は素晴らしいと思います。そこには、先ほど申し上げたように、本気でぶつかり合い、本気で辞める覚悟を持ち、本気で助け合うといった人間関係、つまりフラットな人間関係、そして人間の可能性を否定しないという哲学的な、常にポジティブな姿勢がありました。しかし、具体的なやり方においては、もっと厳しく追求すべき点もあったかもしれません。

 

その一面だけを見て、「全て本田宗一郎のやり方だ」と捉えるのは、少し違うのではないかと正直感じています。NHKさんも、第3期の成績が振るわなかった時はほとんど取材に来てくれなくなりました。結果が出ないと、彼らが描きたいストーリーに合わないからです。第4期も当初はあまり取材がありませんでしたが、結果が出始めた途端に取材が増えました。しかし、一般の人が見ると、やはり結果を出しているプロジェクトが素晴らしいと感じるのでしょう。

 

 

・特に車のように目に見えるものは、その効果が分かりやすいですよね。しかし、ソリューションやビジネスモデルなど、目に見えにくいものを扱っている人間からすると、「結果がすぐには出てこない」という意見も聞かれます。

 

本田宗一郎氏が現場で直接話しながらレースに取り組んだ結果が出たという話を聞くと、やはり心を惹かれるものがあります。特にプロジェクトに関わる人間にとっては、非常に説得力があり、良いと感じます。ですから、静岡県の人たちは、ヤマハもそうですし、ブラザー工業、アルプス電気もそうですし、何か独特な、面白い人たちが集まった県なのだろうなというのが私の印象です。

 

⇒俗に「やらまいか精神」というやつでしょうか、、、

 

 

・今日のお話全体を通して、ホンダが他社と違う点は何か、先ほどおっしゃっていた、いわゆる「やらまいか精神」のようなものを明確に示していただきたいです。一般的な話ではなく、ここが違うからこそこうなのだ、という差異に焦点を当ててお話いただきたいと思っています。

 

⇒そのような中で育ってきてしまっているので、逆にそれが差異だとは認識しておらず、「それは当たり前のことだ」と感じているのかもしれません。それもまた私のバイアスかもしれませんね。無意識のうちに、ある意味暗黙知のような形で、それが自然とできてしまう、それが当たり前だと感じていることは、強みであると同時に、弱みにもなり得るのではないでしょうか。

 

 

・ぜひご説明いただきたいのは、世間一般ではブレインストーミングはこう行われているけれど、ホンダではこの点が違う、という反論にも似た視点です。そこにこそ、本田ならではの特色、貴社ならではの発想の原点があるように感じるのです。何でもが全世界で共通のやり方になってしまったら、日本の存在意義が問われることになります。ですから、ぜひその点について、先進的な教育を受けられている方には、積極的に発信していただきたいと思います。

 

 

・ホンダさんの場合、やはり車好きという方が多いと思います。一方、電気メーカーでは、以前ほど電気好きがいなくなったと感じています。これは、電気の領域にITが加わるなど、専門分野が細分化したことが大きな要因だと考えられます。かつて自信を持って取り組んでいた「物づくり」の現場が、物づくりとは異なる要素が加わってきたことで、少し自信を失っているように見受けられます。その意味で、失敗から立ち上がり、F1に再挑戦されたホンダさんの姿勢は素晴らしいと思います。

 

ITやソフトウェア業界、プログラマーの世界では、その分野を好む人材が集まります。車や製造業のように「モノが好き」というよりは、特定の領域に強いこだわりを持つタイプが多いようです。そういった意味で、良いアイデアが生まれる背景が異なるのかもしれません。ぜひ、ホンダさんのように世界で活躍されている方がどのような考えを持っているのか、お話をお伺いしたいです。

 

自動車は明確な目的があってソフトウェアを開発しますが、ソフトウェアやITの分野では、目的を持たずに開発が進められることがあります。ビジネスモデルを含めて検討した場合にどうなるのかという視点で進めているため、明確な答えは見えません。そのため、倫理観や大義といった意識が低い人が集まりやすいのは当然だと思います。最初からそういったものがない人が入ってくるのです。

 

⇒車も今は、「ソフトウェアディファインドビークル(Software Defined Vehicle)」と呼ばれるようになっていますが、

プロジェクトにおいては、やはり明確な目的、あるいは社会にこのような価値を提供したいという大きな志がないと、良い結果には繋がらないのではないかと感じます。

 

 

・ワイガヤについて最も興味があります。ブレインストーミングとの違いを一言で表すなら、本音と建前の違いだと感じています。ブレインストーミングはよく実施するのですが、どうしても建前ベースの議論になっているように思います。ワイガヤは本音ベースで、本気で取り組もうとする姿勢が感じられます。その建前を本音で引き出すのが、ホンダさんの強みだと私は考えています。

 

ブレインストーミングを実施しても期待した成果が得られないのは、参加者が建前でしか議論していないからではないでしょうか。日本の力が低下してきている要因の一つに、このような本音ベースの議論の場が失われていることがあるように思います。ITやSNSといった便利なツールにばかり目を向け、直接的なコミュニケーションが希薄になっているのは、人間関係における大きな問題だと感じています。

 

お願いしたいのは、ワイガヤの全体像についてです。単にファシリテーションの方法だけでなく、本田さんがおっしゃっていた、いつ頃そのスキルを身につけられたのかという点も知りたいです。おそらく、ワイガヤを効果的に行うには、それなりのマインドセットが必要であり、本音で議論するのは容易ではないはずです。それにも関わらず、本音ベースの議論を実現できている点が素晴らしいと思っています。

 

私自身、様々なミーティングの事務局を担当してきましたが、本音で議論できるようになるまでには、経験的に50時間程度の議論が必要だと感じています。

 

⇒そうですね、時間かかりますよね。

 

 

・その点について、ホンダさんがどのように取り組んでいるのかに興味があります。もしそこを明らかにしていただければ、P2Mはもちろんのこと、日本のブレークスルーにつながるような提案ができるのではないかと期待しておりますので、ぜひともまとめていただければと思います。

 

⇒ホンダの「ワイガヤ」の歴史については、様々な方が記述していますが、私が在籍していた途中で一度ワイガヤ禁止令が出ました。「もっとシステマチックに、きちんと考えて実行せよ」という指示でした。しかし、それが意図しない方向へ進んでしまい、エビデンスばかりを重視するような議論になり、結局、本音で自分の頭で考え抜き、徹底的に議論するという姿勢が薄れてしまったのです。

 

先ほどの建前ではありませんが、体裁の良い証拠が揃っていればそちらが優先されるような風潮になってしまいました。「何かおかしいのではないか」という疑問を持ったり、新しい発見をし、さらに深く考え抜いて新たな可能性を見つけようとする意欲が薄れてしまった時期が確かにありました。最近では、その文化が一度廃れた後に、もう一度ワイガヤの良い点をきちんと取り戻そうと、若い世代が熱心に過去の事例を学び、何が良かったのかを整理し直し、ファシリテーターの配置なども工夫しているようです。

 

 

・私たちの会社でも、ワイガヤのような活発な意見交換を試みていたんです。ところが、参加者の半数近くが質問ばかりになってしまうのです。技術が細分化されすぎていて、そもそも何について話しているのかを理解するのに相当な時間がかかってしまうのです。まず、技術そのものを理解することから始めなければなりません。そして、その技術と技術を組み合わせることで何ができるのかという段階になると、また質問が出てくる。結局、深い議論には至らないという状況でした。

これは、細分化された技術の集合体にいる人たちの、ある意味で避けられない特性なのかと感じます。もし何か共有できる点、共通の視点や価値観のようなものがあれば、それを手がかりにして何とか理解しようと努めるのだと思います。

 

⇒車などは比較的多くの人が運転できるため、感じるところが結構ありますよね。特にアナログ的な感覚の部分は、人によって微妙に違うのではないでしょうか。「なんとなく分かる」という感覚です。先日もどなたかがおっしゃっていましたが、別の会社の車に乗り換えたら、乗り心地が全く違っていて驚いたほどだと。

 

このように、共有できるポイントがあれば、「では、それをどうすれば良いのか」という議論に発展する可能性があります。その点は、車は恵まれているのかもしれません。もし全ての車が自動運転になってしまったら、このような感覚的な共有はなくなってしまうでしょうね。

 

 

 

最後に一言ずつ感想をいただければと思います。

 

・今日は本当に面白いお話で、いつも以上に興味深かったです。ぜひまた、ホンダならではの違いについてお聞かせいただければと思います。よろしくお願いいたします。

 

・本当にありがとうございます。弊社内にもホンダ流の考えを持つ人材を採用しているのですが、やはり強い熱意や信念のある人が壁を突破していくと感じています。そうした個人の力に依存するのではなく、マネジメントで組織的に成果を出そうと試みるのですが、改めて、個人の持つスーパーマンのような力はやはりすごいものだと感じました。これは少し時代の流れとは逆かもしれませんが。

 

・色々と脱線したお話の中にこそ素晴らしい点があると感じました。最後のこの場での共有、ワイガヤも含めてですが、私が転職した会社がなぜ元気がないのかというと、DXに安易に飛びつき、皆がネット上でコミュニケーションを取り、タスクなどがチケットのような形で管理されるようになったからです。その結果、根本的な問題について協議する場がなくなり、なんとなく疲弊している状況です。やはり、このような対話の場をどうやって生み出していくのかが、組織としての力なのだと改めて感じました。どうもありがとうございました。

 

・何度も出てきましたが、PMをその要に当てはめて考えるという視点が非常に良かったと思っています。現在、日本におけるPMの認知度はまだ28%と低く、このままでは困るのではないかと考えています。そこで、PMを活用している人をA4一枚で紹介する企画を、現在私たちのPMAJの部会で進めています。PMSやPMRの資格を持つ方にも登場していただき、事例紹介を通じてPMの知名度向上を図りたいと考えており、近いうちに田中さんにもお声がけさせていただくかもしれません。

 

・私は業務であまり企画を担当しておらず、どちらかというと決められたことをいかに作り上げるかという立場でしたので、今日、その辺りの違いを色々とお聞かせいただき、大変参考になりました。他の方もおっしゃっていましたが、また機会がありましたら、他の自動車メーカーとの違いなど、そういったお話も伺えるとありがたいです。

 

 

2回目のご登壇でしたが、前回のF1のお話も素晴らしかったですが、今回のお話も大変興味深く拝聴しました。豊富な話題をお持ちですので、今後とも、企画シリーズや、ワイガヤシリーズなど、継続的に話題提供して頂くことを期待しています。よろしくお願いいたします。  以上

 

 

<参加者アンケート>

 

1.感想をお聞かせ下さい。

・「P2Mに当てはまる」との説明(特に、スキームモデル)が良かったです。

・顧客の価値分析手法では「デザイン思考」アプローチを取り上げており、従来の「仮説検証型」アプローチと比較できた。

・企画の面でも納得の行く話題だった。

・「本田」流を絶やさず次の世代にも伝えてほしい。

 

2.分かった(理解した)ことは何ですか?

・ある言葉が、普遍的な価値基準を示しているようでも、その背後にある文脈によってその意味は、大きく変わってしまう。

 また、その文脈というものは、文化的差異、風土によって大きく変わってしまう。

 つまり、システムの価値は、文脈に囲まれ区切られた世界においては、共通の意味論的な言葉として扱うことができるが、   

 異なる文脈では、異なる意味論が生じてしまう。

 そして、このことを価値創造の場の前提としないと、価値の共創は成り立たない。

 

・システムにおける価値共創は、システムの構成要素である、要素と要素とのつながりから生まれる創発特性である。

 それは、物理的現象というよりは、化学反応ということができるのではないだろうか。ある特性をもった物質に、

 異なる特性をもった物質が加わることによって、相変化が生まれ、これまでにない特性の物質が生まれることがある。

 価値共創とは、そういうものであるといえる。

 

・価値創造を生み出すための企画は、てんでばらばらにやったところで、利害関係者のベクトルを合わせ、実行段階までもっていくことはできない。そのため企画には、再現可能な仕組みが必要なのはいうまでもない。ただし、誰もがその仕組みどおりにやれば、価値創造ができるということであれば、すでにコモディティ化した仕組みとなっている。よって、世の中に価値創造の仕組みとしての形式知化されているものは、陳腐化していると考えて間違いないだろう。

 

・企画とは、構造的に価値を考えることである。言い換えれば、実現可能なアーキテクチャ構造を持つということである。

 言語化されたものを構造的に扱うものとしてOntologyがあり、こうした考え方も一つの解となる。

 

・企画とは、意味的に統合した仮説の検証である。このことは、システムズエンジニアリングの方法を連想させる。

 要求分析⇔機能分析⇔統合⇔要求分析のつながりのなかで、フィードバックループが検証として扱われていることから、

 企画には、システムズエンジニアリングのプロセスを活用できる。

 

・企画には、計画(プラン)としての意味合いもある。設計図は、大きく分けて3つの分類があり、平面図(Plan)、立体図(Elevation)、断面図(Section)があり、平面図(Plan)は、計画を担っている。次元でいうと、0次元は点、1次元は線、二次元は面、三次元がボリュームである。よって、計画(Plan)は、二次元(二軸)でものごとを捉えることと言っても過言ではないだろう。この場合の二軸とは、空間と時間である。よい企画には、調和がとれた空間が、リズムよく進行してく姿を見て取ることができるだろう。

 

・企画とは、新しい世界の創造を人間がおぜん立てすることである。

「超上流」での業務モデル検討にP2Mのスキームモデルは重要。

アイデア発想法として、ホンダ「ワイガヤ」が革新的発想法である。

 

技術 車の製造技術者の 意識(BtoB型)顧客価値の多様化。

フォーカスするポイントを間違えると、そこを正すことはP2Mの領域ではできない。

 

3.疑問に思う(質問したい)ことは何ですか?

・言葉を重ね、新たな価値を言語化し、実現可能な企画としてまとめ上げるための、組織にある、構造、特徴、振る舞い、特性には、何があると考えられますか。また、そうした組織を作り上げるために、必要とされるものにつは、何があるのでしょうか。

・デザイン思考は、マツダのデザインカー・アプローチ(顧客の声を、直接的にデザインに反映しない)に使えない?

・「ワイガヤ」のやり方では、「相手に共感する」ことが含まれる?

 

 

4.取り上げて欲しい事柄、テーマ、議論したい事柄などをお聞かせ下さい。

・プロジェクトの初期段階の時間をNet Present Valueといった定量的に評価でき、フロントローディングにかける時間の有効性を評価する方法論について、どなたか知見がありましたら、紹介していただきたい。

 

(1)P2Mの適用事例(IT以外の業界向け)

(2)プロダクトマネジメントとP2Mの関係

  ・プロダクトマネジメントは、プログラムマネジメントとプロジェクトマネジメントにおける重要な統合ポイント。

  ・プロダクト・マネジャーは「製品責任者」であり、プログラム・マネジャー(エンジニアリング・マネジャー)は「開発組織の責任者」である。

 

・日本の会社の組織の特徴

・苦闘している現役の話し。

 


<注>

資料は改訂される可能性がありますのでご了承ください。