テーマ: 「当麻先生を囲む対話の場」

     P2M標準ガイドブック 改訂4版― ペンタスロンモデルから考える ―

 

前回 「第75回 P2Mクラブ-11/19」 に参加いただいた皆さまから、『当麻先生を囲む対話の場を設けてほしい』 とのご要望を頂きました。これを受け、本P2Mクラブでは、「ペンタスロンモデル」補講と「参加者交流会」の二部構成にて企画いたしました。

 

(プログラム) :

 

第1部 : 「当麻先生講話」 (17:00~18:30)

(テーマ) ペンタスロンモデル再訪

  ・・・当麻 哲哉 ( Toma Tetsuya ) 博士(SDM学)/PMP、教授

   慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科

 

 

『P2M標準ガイドブック 改訂第4版』 の中核概念である「P2M事業モデル」のベースとなった「ペンタスロンモデル」について、前回 P2Mクラブ参加者から寄せられた要望を踏まえ、 当麻先生より補講をいただきます。改訂第4版で示された思想・構造・意図を、 実務・教育・普及の文脈から改めて捉え直し、 P2Mの本質を深く理解する時間とします。

 

 

第2部 : 「参加者交流会」 (18:30~20:00)

(テーマ) P2Mは、どうすれば使われる思想・手法になるのか

 

当麻先生を囲み、ミニトークを起点としたフランクでありながら本質的な対話の場です。実務・教育・普及の観点から、参加者同士で自由に意見交換を行います。

多様な現場経験をお持ちの皆さまの知見を持ち寄り、P2M改訂第4版がもたらす本質的な変革とは何かを、立場や分野を越えて、率直かつ建設的に議論できることを心より楽しみにしております。

【話題例】

P2Mの本質的な魅力とは何か

PM以前に求められる 「思考様式」 「問題設定力」 とは

プログラムとプロジェクトの違いを、どのように教えるか

科学技術イノベーションとプログラムマネージャーの役割

PMS/PMSPからPMRへのロードマップと具体的打ち手

AIとの価値共創時代、P2Mは何を担うべきか

P2M改訂第4版を、どのようにプロモーションし普及につなげるか など

 

※ ご自身のテーマをお持ちの方は、ぜひ積極的にエントリーください。

※ 参加費 : 1,000円 (軽食付き)

※ 議論が出尽くした時点で終了 (~20:00)  

 


<事前配布資料>

 


講話・議論概要                                            文責:岩下

 

 

第1部 : 「当麻先生講話」 

(テーマ) ペンタスロンモデル再訪

      ・・・当麻 哲哉 ( Toma Tetsuya ) 博士(SDM学)/PMP、教授

            慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科

 

 

<当麻先生講話>

 

1.講師紹介

本日は『P2M』と、ペンタスロンモデルが掲載されている『イノベーション・マネジメント』をもとに解説します。偶然にも2冊は装丁の色が似ており、内容面でも共通点が見受けられます。本題に入る前に、まずは簡単に自己紹介をさせていただきます。

 

私は約20年間3Mに勤務した後、2008年から慶應義塾大学SDM(システムデザイン・マネジメント)研究科に着任しました。現在はフォトニクス・リサーチ・インスティチュートの副所長も兼務し、プラスチック光ファイバーの研究開発に携わっています。

 

専門はプログラム&プロジェクトマネジメントですが、研究の中心は「コミュニケーションデザイン」――すなわち、コミュニケーションを通じた社会課題解決の設計にあります。医療・教育・地域活性化の各分野で実践研究を行うほか、PMI日本支部アドバイザー、PMAJ理事、国際P2M学会理事、日本創造学会副評議委員長を務めています。また、P2M標準ガイドブック第4版改定委員長を担当しました。

 

2.P2M標準ガイドブック第4版の概要

2024年秋に発行された第4版の最大の特徴は、新たに「P2M事業モデル」が導入された点です。第3版まで三角形のピラミッドで表現されていた構造が、実務における全体の流れを可視化するプロセスフローへと進化しました。このP2M事業モデルの発想の源泉となったのがペンタスロンモデルです。

その他の主な改訂点は以下の通りです。新たな原理原則として「P2Mプリンシプル」を導入し、アジャイルやデザイン思考の考え方も取り込みました。プログラムマネジメント(第2部)は大阪大学の岩崎先生を中心に全面再構成され、プロジェクトマネジメントについても従来のマネジメントベースからプロセスベースへと構造転換が行われています。

 

3.ペンタスロンモデルとP2M事業モデル

ペンタスロンとはオリンピックの五種競技になぞらえた概念です。一人の選手が五つすべての種目をこなすように、イノベーションも特定の一要素だけでは成立しないという発想に基づいています。

このモデルはKeith GoffinとRick Mitchellによる『イノベーション・マネジメント』(第3版、2017年)に基づき、五つのブロックで構成されています。

 

・上部:戦略

・中央(横軸):アイデア創出 → 選択(優先順位付け)→ 実装

・下部:人(組織文化・能力)

 

どれか一つでも欠けるとイノベーションは成立しません。単にアイデアを生み出すだけでは不十分であり、それを支える戦略と、実現する人材・組織文化が不可欠です。この「上(戦略)」と「下(人)」を重視する考え方は、従来のP2Mの構造とも本質的に一致しています。

 

P2Mの観点から見ると、ペンタスロンには「運用」が不足しています。3Sモデルの最後の要素であるサービスモデルプロジェクト(運用段階)が含まれていないためです。そこでP2Mでは「運用=サービスモデルプロジェクト」を追加し、六つのブロックを持つ構造へ拡張しました。

 

中央の横軸には以下のプロセスが並びます。

・構想+検証(スキームモデルプロジェクト)→ ペンタスロンの「アイデア創出・選択」に対応

・実装(システムモデルプロジェクト)→ 同「実装」に対応

・運用(サービスモデルプロジェクト)→ P2Mが新たに追加

イノベーションは生み出すだけでは不十分で、社会の中に実装・運用されて初めて成立します。その現実を構造として組み込んだのがP2M事業モデルです。

 

なお、著者たちが運営する「R&Dtoday」サイトでは、ペンタスロンをロケットのメタファーで表現しており、「ローンチ(燃焼)」と「市場突入」が追加されています。構造的にはP2M事業モデルとの類似性が非常に高まっており、実質的に6ブロック化の方向へ進んでいると言えます。

 

4.第4版の新要素:7Keys

第4版では「7Keys(成功に導く7つの鍵)」が新たに加わりました。7つの鍵の一番目は「価値第一」で、価値を最優先に置くことが最も重要です。」そのうえで、残りの6つの鍵である戦略との整合性」、「ゴール起点」(バックキャストの思考)、「システム思考」、「上流への注力」、「チーミング」、「テーラリング」を加えた全部で7つの原則が整理されています。

 

5.『イノベーション・マネジメント』の概要

本書は全9章で構成されています。第1〜3章はイノベーションの基本概念を扱う導入部、第4〜8章はペンタスロンの各要素を詳述、第9章で全体を統合しています。以下、各章の主要ポイントを整理します。

 

第1章:イノベーションに関する誤解

多くの企業では、イノベーションは「創造的な個人のひらめき」や「R&D部門の仕事」と考えられがちです。しかし本書は、イノベーションを偶発的な出来事ではなく、マネジメント可能な組織プロセスとして位置づけています。

 

アイデア創出だけでは成果につながりません。戦略・アイデア創出・選択・実装・組織文化という5つの要素が相互に連動することで初めて成果が生まれます。例えば、実験を許容しない文化では新しい試みは育ちませんし、戦略と整合しないプロジェクトは実行しても成果につながりません。

P2Mとの関連で言えば、「プロジェクトの単純な足し算では価値は生まれない」という点が共通しています。価値創出は統合されたシステムとして生まれるものであり、ペンタスロンはP2M事業モデルの前半構造(運用以前の領域)に相当すると整理できます。

 

第2・3章:イノベーションの定義と本質

イノベーションの起源はヨーゼフ・シュンペーターが提示した「ニューコンビネーション(新結合)」の概念にあります。1911年頃に生まれたこの言葉は日本では「技術革新」と訳されることが多いですが、技術に限定されないため「経営革新」と捉える方が実態に近い概念です。

典型的な誤解として、「創造的なアイデアを思いついた時点でイノベーション」とする理解があります。しかし発想はあくまで創造活動にすぎません。商業化、または社会的価値の創出にまで到達して初めてイノベーションと呼ばれます。対象は新製品に限らず、サービス・プロセス・ビジネスモデルすべてが含まれます。

また、「新しい技術を使えばイノベーションになる」という理解もズレています。本質は「新しさ」ではなく、組み合わせの意味変化です。既存要素でも新結合によって価値が立ち上がれば、それはイノベーションです。問題はテクノロジーではなく、人と組織がどう関与するかにあります。

 

イノベーションの3類型と破壊的変革

イノベーションには「インクリメンタル(漸進型)」「ブレイクスルー(飛躍型)」「ラディカル(根本変革型)」の3類型があります。技術・提供価値の新規性と市場の新規性の掛け算で整理されます。

クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』が指摘したように、インクリメンタルな改善を続けると「顧客が求める水準を超えた過剰性能」に到達します。この隙間から、最初は性能が劣るように見える新しい選択肢が登場します。それが別の価値軸(シンプル・速い・安い・手軽)で改善を続けるうちに主戦場に侵入し、逆転が起きます。スマートフォンがガラケーを置き換えた過程が典型例です。進化し続けるほど次の進化に弱くなる――この逆説に、イノベーションのジレンマが潜んでいます。

 

4章:オペレーションとイノベーションの構造的違い

オペレーションは再現性の世界(安定・効率・品質)であり、イノベーションは探索の世界(試行錯誤・仮説検証)です。同じ評価軸では測れません。組織の中に「失敗を減らすべき領域(ルーチン業務)」と「失敗を前提とする領域(変革活動)」の二領域を共存させ、それぞれ適切なマネジメントを行うことが重要です。個別の失敗よりも、そこから得られた教訓を組織のプロセス資産へ転換することが求められます。

 

イノベーションは不確実性・曖昧性が高く、成功確率が低いことが前提条件です。「成功率の低さ」は欠陥ではなく本質です。ところが企業内では新規事業部門に過剰な成果圧力がかかり、挑戦であるべきところが、実現可能性の高い「改良型」に収束してしまいがちです。

 

5章:問題解決思考とイノベーション思考の違い

通常の問題解決は「原因は何か?」を追いかけ、既に与えられた枠の内側を深掘りします。合理的ですが、枠そのものを疑わないため、イノベーションはそこからは生まれません。

これは学術的には「要素還元思考」と「システム思考」の対比で説明できます。要素還元思考は問題を分解して原因を特定・修正します。一方、システム思考は全体の関係性・相互作用・構造を多視点で捉え、異分野の視座を組み合わせて意味を生み出します。イノベーションが生まれるのは、原因追求の延長ではなく、関係性の再編成の中です。

 

有名な認知実験では、腫瘍を探している放射線医師の多くが、画像内の大きなゴリラのシルエットに気づかなかったことが示されています。専門性が高まるほど視野は鋭くなる一方、視界は狭くなり、自分の無意識の枠(専門家バイアス)をはめてしまいます。イノベーションとは、見逃されているゴリラを発見する営みでもあります。「9点問題」が示すように、制約は問題にあるのではなく思考の中にあります。無意識の枠を外すことがイノベーションの出発点です。

 

多様性・普及・失敗からの学習

会議の参加者構成に関する研究では、専門家のみの均質な集団は正確な答えを出す力が高い一方、価値の高い新規アイデアは生まれにくいことが示されています。多様なバックグラウンドを持つ人材が混ざると議論は非効率になりますが、専門家だけでは出てこない視点が現れ、イノベーションの価値が高まります。多数の石の中からダイヤモンドを見つける構造です。

 

イノベーションの普及については、エベレット・ロジャースの普及理論が参照されています。まずイノベーターやアーリーアダプターに受け入れられることが前提ですが、ジェフリー・ムーアが指摘した「キャズム(死の谷)」を越えられるかどうかが、社会への本格普及の分岐点となります。

失敗からの学習については、プロジェクトマネジメントの体系において形式知・暗黙知の両方を「Lessons Learned(教訓の文書化)」として蓄積することが求められます。マツダの「失敗大賞」や3Mのポストイットのように挑戦を称賛し失敗を勲章化する文化が、イノベーションを生む土壌となります。この考え方を支える思考枠組みとして、システム思考(失敗を個人ではなく構造の問題として捉える)とデザイン思考(失敗を探索プロセスの一部とみなす)が重要です。

 

6.ペンタスロンの実践領域

書籍の構成はペンタスロンの三層構造に対応しています。第4章=戦略、第5〜7章=プロセス(アイデア創出・選択・実装)、第8章=文化・組織です。

 

戦略(第4章)

発想から始めるのではなく、「どこを狙うか」を決めることが出発点です。完全な自由発想はむしろ思考を停止させることもあり、一定の制約や枠組みがあることで創造性は活性化します。

 

戦略はイノベーションのポートフォリオ配分も含みます。「インクリメンタル70%・ブレイクスルー20%・ラディカル10%」のような配分により、短期成果と長期革新の両立を図ります。

 

戦略設計の具体的手法として、①共感マップ(顧客のペイン・ゲインを抽出)→ ②バリュープロポジションキャンバス(顧客の状況理解を提供価値設計へ変換)→ ③ビジネスモデルキャンバス(収益構造まで含めた事業全体像の構築)という3段階のキャンバスを用います。観察→価値設計→事業設計という流れが、戦略と整合したアイデア創出につながります。

 

プロセス:FFEとシステム思考・デザイン思考(第5〜7章)

プロセス領域の出発点は「FFE(ファジー・フロントエンド)」です。これはまだ問題も解も定義されていない曖昧な初期状態を指します。この領域ではシステム思考とデザイン思考の併用が重要です。

 

システム思考は論理・データ・構造を扱い(左脳的)、デザイン思考は直感・感性・意味理解を扱います(右脳的)。どちらかを選ぶのではなく、両方を統合することが求められます。ピーター・ドラッカーも「成功するイノベーションは数字を見る力と人を見る力の両方を必要とする」と述べています。チームでこの二つを補完し合う設計も有効です。

 

デザイン思考の特徴は「考えてから作る」のではなく「作りながら考える」点です。簡易プロトタイプを用いて早期に失敗する(Fail Fast)ことで学習を加速します。発散と収束を繰り返しながら価値ある解を創出し、選択・優先順位付け・実装へと進みます。

 

文化・組織とリーダーシップ(第8章)

ハーバード・ビジネス・レビューの調査では、部下が求める上司像として「グループをチームに変えられる上司」が高く評価されています。グループは単なる人の集合体ですが、チームは目的を共有し、方向性と感情的なつながりを持つ状態です。優れたマネージャーとは、よそよそしい集合体を共通の志を持つチームへと変換できる人だと言えます。

 

近年重視されているのが「スチュワードシップ」(責任ある行動と信頼による組織運営)と「サーバントリーダーシップ」(リーダーが上ではなく下から支える姿勢)です。従来型の上意下達とは異なり、リーダーがメンバーを支え、メンバーが顧客を支えるという流れが価値提供を滑らかにします。

チーム形成には段階があり、対立や摩擦を経ながら成熟していきます。コンフリクトは回避するのではなく、直面し協働的に解決することが重要です。その基盤となるのが心理的安全性です。これは仲良しクラブを作ることではなく、上下関係を超えて賛成も反対も自由に言える状態を意味します。

 

7.まとめ

本日の講義はペンタスロンモデルを軸に、イノベーション・マネジメントの全体像を紹介し、プロジェクトマネジメントとの共通点と相違点を示すことを目的としました。

最後に強調したいのは、スチュワードシップとサーバントリーダーシップというマネージャー・リーダーの基本姿勢です。すべてのプロジェクトには必ず「人」が関わります。人を大切にし、話をよく聴き、思いを共有し、相手を理解すること――「理解(Understand)」とは「相手の下に立つ(Under + Stand)」こと、すなわち相手の目線まで降りて支える姿勢に立つことです。その位置に降りて初めて、相手を本当に理解できます。ペンタスロンモデルを通じて、P2Mの枠組みの有効性と位置づけへの理解が深まれば幸いです。

 

<質疑応答>

・【質問】

スライド27枚目の図についてお聞きします。これはPMIの図だと思うのですが、イノベーションとオペレーション――左と右――の両方を、『イノベーション・マネジメント』のイノベーションの考え方を反映させようという意図で描かれているのでしょうか。

PMIに関わる立場からの個人的な感想として、先生がおっしゃったようにイノベーションとオペレーションは両輪の関係にあると理解しています。その際、イノベーションは「価値創造」、オペレーションは「価値提供」と整理できます。また、左側はP2Mでいう運用フェーズに相当しますが、事業全体で考えるとオペレーションと捉えられる、という解釈でよろしいでしょうか。

⇒【回答】

そうですね。この図はプロジェクトの位置づけを示したもので、プロジェクトは定常業務とは別の営みであるという切り分けを表しています。ただし、両者が一緒に機能しなければ、その上位にあるプログラムやポートフォリオは成立しません。

担当する人材もマインドセットも全く異なります。定常業務は100%の成功を目指して進めるものですが、プロジェクトは不確実性の中でリスクを抱えながら、学びながら進めていくものです。働き方は違っても、それを統合していくのが組織の役割である――このピラミッドはそのニュアンスを示しています。

 

なお、この図はPMIの「プログラムマネジメント標準」に出てくるものですが、そちらでもさほど詳しくは説明されていません。「オペレーションとイノベーション」という説明は、講師が付け加えた解釈です。定常業務(オペレーション)を進めながら、プロジェクトを通じてイノベーションを目指していく。働き方は異なりますが、上位の組織が両方のバランスを取るという構造です。

「運用」という理解でも問題ありません。ただし、P2Mにおける運用は単なるルーチン作業ではなく、運用しながら次を考える活動です。左側(オペレーション)を進めながら右側(イノベーション)の要素を探し出していくのが、PMにおける最後の運用フェーズと言えます。

また、イノベーションは成功確率で管理するものではありません。成功を目指す姿勢は重要ですが、むしろ失敗する方が多いのが現実です。大切なのは失敗をどう扱うか、そこから何を学んで次につなげるかです。積極的に挑戦していく精神が求められます。

加えて、イノベーション専門部門を設置すると目標が課せられ、実現可能性の高いインクリメンタルな改善に収束しがちです。だからこそ、過度な期待をかけず、失敗しても構わないという姿勢で挑戦を支えることが重要です。「面白いことをやってごらん」と後押しできるような組織風土が求められます。

 

・【質問】プログラムマネジメントやP2Mの考え方について、大学や研究機関においてプログラムマネジメントをさらに進化させようとする研究は、活発に行われているのでしょうか。

⇒【回答】やプロジェクトを対象とした研究は、全体論ではなく部分的な研究になりやすい傾向があります。研究者は具体性がなければ研究を進められないため、どうしても焦点を絞る必要があるからです。

例えば、「新規事業開発を行う組織はどのようなマインドを持つべきか、またそれが成功にどう影響するか」といったテーマであれば、調査・分析の対象として成立します。一方、対象範囲を広げすぎると曖昧性が高まり、明確な結果を出せなくなります。そのため、プロジェクトを全体論として扱う研究はあまり多くありません。

研究の中心は、組織や方法論に関するテーマとなります。「特定のフレームワークを導入することでプロジェクトがうまく進むか」といった方法論的な研究は一定数存在しますが、プロジェクト全体を統合的に扱う研究は少ないのが現状です。

 

・【質問】プログラムをより効果的に進めるために、エンジニアリング的なアプローチで研究するような取り組みは行われているのでしょうか。

⇒【回答】例えば、意思決定をデータドリブンでシステム的に行ったり、シミュレーションを活用したりすることで、意思決定の精度を高める研究は存在します。

通常の組織では、議論の中で声の大きい人の意見が通ったり、立場の強い人に反対しづらくなったりする傾向があります。その結果、合理性よりも影響力によって意思決定が左右されることも少なくありません。

本来は、ファクトを収集・分析・可視化し、それを共有したうえで議論を行い、より妥当な方向を選択することが望ましい姿です。モデルベースのアプローチは、そのような意思決定の質を高める有効な手段となり得ます。

 

・【質問】本日はお話を伺いありがとうございました。イノベーションの重要性はよく理解できましたが、日本社会が本当にイノベイティブに進化し、世界の中で存在感を高めていくためには、何が必要だとお考えでしょうか。

⇒【回答】研究データに基づくものではありませんが、一番大事なのは「気持ちの部分」だと思っています。チャレンジできるだけの支えがあるか、あるいはチャレンジしたいと思えるモチベーションがあるか、という点です。オリンピックを見ていても感じますが、アメリカの選手はプレッシャーを背負いすぎず、楽しみながらパフォーマンスを発揮しているように見えます。一方、日本の選手は「メダルを取らなければならない」というプレッシャーから固くなり、100%の力を出し切れない場面があります。

仕事でも同じことが言えます。強いプレッシャーの下では、十分なパフォーマンスは発揮しにくい。ただ、日本はそうした状況の中でも力技で成果を上げ、優れたものを作り続けてきました。それ自体は決して悪いことではありません。

しかし、心理的安全性が確保された自由度の高い環境で取り組むことができれば、期待以上の成果を生み出せる可能性があります。そのような組織づくりと、それを支える周囲の体制を整えることが重要だと思います。

 

・【質問】企業組織においてそうした状態が実現すれば、日本全体の力も少しずつ高まっていくのではないかと感じました。

⇒【回答】最近はアントレプレナー(起業家)が増え、発表の場や投資を受ける機会も広がっています。そうした環境が整えば、より高いパフォーマンスを発揮する人材がさらに現れてくるでしょう。新しいビジネスを創る若い世代が活躍する場は、これからますます広がっていくのではないかと思います。

 

・【質問】PMAJのメイン商品は、やはりP2Mです。P2Mをもっと認知してもらい、資格取得や実務での活用につなげていかなければならないと思っています。ただ率直に申し上げると、少し専門的すぎてとっつきにくいという印象もあります。難しいことを難しく説明しているように聞こえる場面もあります。どのように理解しやすくするか、さまざまなアプローチを試みているところですが、民間企業で使えるようにするには、エンジニアリング的に整理していく必要があるのではないかと感じています。特徴を強調しすぎることで、一般企業にとってはかえってハードルが高くなっている部分もあるのではないでしょうか。現場で使えるようにするためには、「ひな型」や「テンプレート」を用意するといったアプローチが必要だと思っています。そうすることで、企業側も「ちょっとやってみようか」という気持ちになりやすい。10年ほど前にグランドデザインのような取り組みを進めたことがありましたが、人によってやり方が大きく異なってしまいました。一般企業で再現性のある形にするには、ある程度の「型」や「流れ」が必要です。本来はツール的な方向に進めるべきでしたが、十分に取り組めなかった経緯があります。普及推進をどう進めるか、何かアイデアがあればぜひ伺いたいのですが。

⇒【回答】これまでは、ツールやテクニックを教える方が使いやすいという考え方で進めてきました。しかし、それだけではなく、もっと重要なことがあるのではないかという揺れも感じています。

原理原則に立ち返る流れもありましたし、また実務的な方向に戻る動きもありました。第4版を作成する際にも、委員会の中で原理原則を中心に据えるという議論がありました。ただ、それでは教えにくいうえに、使う側もどう活用すればよいのかが分かりにくい。結論として、実践で使えるテクニックもきちんと整理して示していく必要がある、ということになりました。

 

 

第2部 : 「参加者交流会」  

(テーマ)P2Mは、どうすれば使われる思想・手法になるのか

 

【ミニトーク1:田島さん】

もともと技術者として会社に入りましたが、その後プロジェクト・プログラム・ポートフォリオ・ビジネスアナリシスなど幅広い領域に関わるようになりました。

勤務先からの要請でITコーディネーターを取得し、続いて「海外で仕事をしているならPMPだろう」という勧めでPMPも取得しました。その後、PMBOK委員長を務めるとともに、学会活動や本部運営にも携わるようになりました。ISO関連の委員としてPMI本部(アメリカ)へ赴く機会もあり、海外のプログラムマネジメント関係者と交流を深めました。

ISOの整備が一段落した後、個人事業を開始しました。PMIのポートフォリオ・プログラムマネージャーのコミュニティで活動していると、「人の資金で仕事をしているだけで、自分で会社を作ったことはないでしょう」と言われたことを機に、共同責任事業組合(LLP)を立ち上げました。これがうまく機能したため、その後、合同会社(LLC)として法人化し、現在はその形で活動しています。

こうした経験を通じて、プログラム単位・ポートフォリオ単位で仕事を進めることが実際の組織形態と結びついて理解できるようになりました。原理原則として学んできたことが、実務として一致してきたという実感があります。

その後、ビジネスアナリシスの団体であるIIBAにも関わるようになり、ISO活動と並行してイノベーションマネジメントにも携わっています。最近ではデジタルスキル標準などの動向にも対応しながら、経済学・社会学・心理学といった分野も学び、PMやビジネスアナリシスと組み合わせて顧客への説明や自身の意思決定に活用しています。案件ごとに適用する知識が異なるため毎回考えながら進める必要がありますが、それ自体が思考のトレーニングにもなっています。

現在は、個人・チーム・組織・地域という多層的な単位で活動しながら、標準やベストプラクティスの実践に取り組んでいます。こうした活動がLLP・LLCの実務にもつながってきたと感じています。

今後は、PMの議論の中で会社設立や新たな組織形態の実践といったテーマを扱う機会があってもよいのではないかと思っています。P2Mに「プラスアルファ」を加えるような企画があれば、さらに発展的な議論につながるのではないでしょうか。

・【質問】

「プラスアルファ」とは、具体的にどのようなことを指しているのでしょうか。

⇒【回答】

例えば、会社の作り方といったテーマです。PMAJならではの特色を打ち出すことで、PMI側にとってもプラスになるような価値を提供できるのではないかと思っています。まだ十分に整理できていないので、もう少し進んだところで改めてお聞きいただけると助かります。

 

【ミニトーク2:森さん】

PM普及に向けた提言

まず最初に、PM本題に入る前に共有しておきたいことがあります。以前、在籍していた会社で作成した資料で、プロジェクトマネジメントがうまくいかない原因を因果関係として整理した全体像です。設計・製造・営業の間で責任の押し付け合いが起き、問題が複雑化していたため、関係者の発言を整理して可視化しました。社長以下の全役員・本部長と個別面談を行い、「我が社のPMがうまくいかない理由」を1枚にまとめたものです。これを基に現状の課題と対策を照合することで、問題の可視化が進んできました。

本日の結論は3点です。

第1に、公共案件の入札参加資格にP2Mがほとんど含まれていないことが、普及の大きな障壁になっています。約20年前、小泉内閣の時代に「優れた技術の事業化にはPMが必要」という方針が示され、経済産業省でも推進が図られました。しかし国家資格体系にPMが組み込まれなかったことが、普及の遅れにつながった可能性があります。自社では管理職候補60名にPM資格を取得させましたが、入札要件に含まれないため制度として定着しませんでした。現状ではIPA資格やPMPなど技術系資格への志向が強い傾向があります。

第2に、IT系スタートアップへのPM普及には、知識体系の軽量化が必要ではないかという点です。PMの説明を行っても「概念が難しく使い方が分からない」という反応が多く見られました。スタートアップではDO中心の行動が支配的で、PDCA以前にDCAの状態です。市場投入を優先する中で、財務・知財・情報保護が弱点になりやすい傾向があります。開発プロジェクトと管理業務をプログラムとして束ねることで、PM知識を軽量化しながら実装できるのではないかと考えています。

第3に、PMR試験について、受験者自身の案件をスキーム・システム・サービスの観点から事前に論文化し、面接で評価する仕組みが有効ではないかという提案です。現行制度は個別プロジェクトのQCD達成が中心で、全体最適の観点が弱い傾向があります。またPMOの経験から、人間関係やコミュニケーションに起因する問題の解決が成功に大きく寄与すると感じています。

最後に問いを提起します。

社内にPMを普及させることは可能でしょうか。また、資格保有者数をKPIとすることは適切でしょうか。PM普及には社内制度と連動した体制構築が重要ですが、入札要件にP2M資格が組み込まれない限り、普及は難しいというのが現状認識です。

⇒経済産業省の入札条件にP2Mを組み込めないかという点については、約2年前に加藤理事長や西尾さんらがデジタル庁を訪問し、入札仕様書にPM関連要件を盛り込めないか交渉を行った経緯があります。具体的には、入札仕様書にPMを明示的に記載するよう提案しましたが、「PM的な内容は既に記載されているため、個別資格を一つひとつ追加することはできない」という理由で、対応は難しいとの判断が示されました。

その後、IPAにも同様の働きかけを行い、PM関連の要素を制度に取り入れられないかを検討しました。しかし当時、IPA側では人材スキルマップの再構築を進めている最中であり、プロジェクトマネージャーという職能の明確な切り出しを重視していなかったこと、また制度自体が移行フェーズにあったことなどを背景として、提案は十分に受け入れられませんでした。

結果として、現在も状況は大きく進展していないのが実態です。ただし、この問題意識自体は妥当であるとの認識は共有されており、今後あらためてデジタル庁への働きかけ(リターンマッチ)を行う余地はあると考えられています。また、現場実態を踏まえたアプローチの工夫――いわば「別バージョン」の提示――ができれば、反応が変わる可能性もあるとの示唆があり、この点については後ほど議論を深めていく予定です。

 

【ミニトーク3:藤澤さん】

私はどちらかというと完全な個人会員で、法人会員でもなく、ITとも無関係なアウトサイダー的な立場です。それでも第1回の頃からご縁があって関わり始め、2001年からすでに25年近く、ずっと勉強を続けてきました。

もともとは、課題をどう回避するか、そのためのツールとして何が有効かという視点で見てきました。さまざまな仕事を経験し、多くの経営者と一緒に仕事をする中で、結果的にP2Mが自分の課題意識にうまくマッチしたという感覚があります。自分自身が実践するために、このツールを最大限活用してきました。

ただ、これを人に伝えようとすると、3Sモデルのようなものをそのまま見せた瞬間に拒絶されてしまうことが多いです。企業にはそれぞれの成り立ちや歴史がありますから、新しいものをそのまま持ち込んでもなかなか受け入れられません。実際、「プロジェクトマネジメントを導入しましょう」と言っても、PMIやPMPという言葉すら「何ですか?」という反応がほとんどです。

そこで、3年ほどかけて進めた社内プログラムでは、PMという言葉は一切使わず、考え方だけを少しずつ取り入れました。概念としてではなく、「こう考えたらいいよね」という形で進めていくことで、実際に形にすることができました。

また、環境も大きく変わっています。以前はリアルの場に行かなければ学べませんでしたが、コロナ以降はオンライン化が進み、プロジェクトマネジメントの知識や事例も無料で学べるようになりました。その結果、「なぜPMでなければならないのか」という理由が見えにくくなってきているとも感じています。

私自身も、最初は知識を得ることを目的に関わりましたが、それだけではうまくいきませんでした。知識をどう使いこなすかまで踏み込まなければ、実際には役に立たないと思っています。

今回のP2Mガイド第4版については、事業モデルやプリンシプルが整理され、「価値第一」という考え方が明確に示された点は大きいと感じています。今は、「価値の源泉は何か、それを守ること、そして同時に変えること」という切り口で説明しています。守る活動と変える活動を同時に行うことで新しい価値が生まれる、という話をすると、30代の管理職でも比較的自分ごととして理解してもらえます。現場に直接足を運び、価値の源泉を体感してもらうこともしています。そうすることで、PMという言葉を使わなくても、その考え方は十分に活用できます。

この20年以上、ここで学び、多くの方と出会い、それを実践できたことは非常に大きな助けになっています。これからは、それを次の世代にどう伝えていくか、どう情報提供していくかを、皆さんと議論していければと思っています。以上です。

 

⇒弊社では、2年間、役員の方々と一緒にしっかり勉強してきました。ただ、実際に動くのはミドル層です。私たちが目指しているのは、特定の層だけが理解している状態ではなく、全員が参画できる形で持続的に価値を生み出せる仕組みです。上だけが理解していても、現場は動きません。だからこそ、「やっていいんだ」と思える環境をつくらなければ前に進まない――このことをこの20年以上の活動の中で痛感してきました。経営の考えを実現するためにも、現場が抱える改善要望や不満を取り込むためにも、ミドル層が理解することは極めて重要です。

一方向に落とし込むのではなく、「守ること」と「変えること」の両方がどの階層にも存在するという認識を共有する必要があります。現場には日常の改善があり、経営にはより大きな変革があります。この両方を同時に行うことで、結果としてイノベーションが生まれます。

実際、日常業務が全体の90%を占めており、プロジェクトとして動ける人は5%程度に過ぎません。だからこそ、この90%の人たちに「ここでも自分にできることがある」と伝えることが必要です。

現在は、実務でPMに取り組んでいる人、学問としてPMを研究している人、それを活用する立場の人、それぞれに届く資料や形をどう作るかを模索しています。重たい本を渡すとシャッターが下りてしまいます。だから、もっと気軽に使えるコンテンツが必要です。高校生向けのイベントを企画した際には、「自分でもできる」と感じてもらえました。そうした入り口を増やすことが重要だと考えています。

また実務の中では、例えば開発現場で複数のトレードオフが発生した際に、P2Mの考え方を使うと整理できる場面が多くあります。そういう場面こそPMの枠組みが力を発揮する場面であり、その役割は確実に果たせると認識しています。

 

⇒おそらく、私たちの開発と皆さんの開発は性質が違うのだと思います。私たちは常に回し続けており、年間500アイテム以上を扱っています。ですから、定常業務の中にプログラムを組み込むとか、特別に構えるといった話ではなく、普通に3ヶ月ごとに商品が入れ替わっていきます。どんどん回していくので、「プログラム」という概念を意識して取り組んでいるわけではありません。それが普通にできてしまう環境なのです。失敗することもありますし、抵抗が残ることもある。そういったことも含めて、日常的にこなしています。

ただ、こうした考え方を意識して使えば、もっと楽になるはずです。それをどう伝えるかが、今考えているところです。私のいる業界とエンジニアの世界では、そのあたりが違うのだと思います。

 

・お伺いしたいのですが、学生の方々に対して、P2Mのプログラムマネジメントをどのように教えていらっしゃるのでしょうか。

⇒ツールを教えることが中心ですが、「それを自分が今やっていることに適用してみてください」という形を基本にしています。学生は社会人ですので、自分の会社の仕事でも構いませんし、授業に持ち込めない場合は趣味や家族の活動でも構いません。自分のやっていることをプログラムに見立てて、習ったツールを使ってみる、という進め方です。

授業ではチームを組み、各自が宿題で作ってきたものを共有します。その中の誰かの事例を取り上げてさらにブラッシュアップし、次に新しいツールを学んだら、今度はその事例を使ってみんなで適用してみます。使い方が分かったら宿題として持ち帰り、自分のケースに適用して次回共有する。

「新しいツールを学ぶ→代表例で試す→自分のケースに適用する」

この流れを7回ほど繰り返します。具体的な対象がないと学びにくいため、ひな型やテンプレートがあった方がやりやすく、誰でも試しやすくなります。そうしたものがセットになった簡単なテキストがあると良いかもしれません。実際、PMAJで作成された事例集――ツールの例をまとめたIT業界向けのP2M事例集のようなもの――が以前ありました。そうしたリソースの活用も有効だと思います。

 

【ミニトーク4:早川さん】

前にも出た話ですが、改めて申し上げます。PMAJの資産として売るべきものはP2Mであり、P2Mそのものが商品です。だからこそ、それを売っていかなければなりません。そのための活動を今、前面に出して進めようとしているところです。

ただ、やはり少し学問的すぎて、難しく感じられてしまう面があります。利用者にとってより使いやすく、理解しやすくするためのガイドのようなものがあればよいと思っています。テンプレートやプロセスの形に落とし込まないと、なかなか浸透しません。人によって理解の仕方もやり方も異なりますが、民間企業で使うためにはエンジニアリングとして実装できる形にする必要があります。そうしたアプローチが普及推進の課題でもあります。PMハンドブックのサブセットとなる補足資料として企画できるのではないかと考えています。完成形はおそらく永遠に完成しないものだと思います。むしろ、お互いに協力しながら進化させていく形が望ましいのではないでしょうか。

 

⇒私が授業で取り組む中で、既存のフレームワークにはあまり見られないものとして、戦略マップやロードマップがあります。それらを並べて示すことで全体像が見えてきます。自分がどこを担当し、誰がどこを担っているかが分かるようになると、自分の位置づけが明確になり、仕事の意味も見えてきます。「誰かのこの活動のために、自分はここを担っている」と理解できることが、学びにつながります。

ビジネス戦略マップの流れは、テンプレートやモデルに要素を埋めていく思考プロセスそのものです。まずビジネスモデルキャンバスを示し、各ブロックの要素を戦略マップの対応する箇所に当てはめていく。そのように教えると、一度で全体の形ができあがります。その後はアドバイスを重ねて洗練させていきます。完成した段階で、参加者は非常に有用だったと実感してくれます。

私が実施しているP2Mを活用したプログラムマネジメントでも、最終ワークショップの成果物はモデルキャンバスの形にしています。そのためのレクチャーや情報提供を行い、参加者自身がフレームの中に落とし込んでいきます。参加者の満足度は高く、やはりツールの使い方を伝えることは極めて重要です。

 

【ミニトーク5:中島さん】

ほとんど重なる話になりますが、共有させてください。先ほどご紹介したのは、P2Mの合格者数の推移です。これまで議論されてきた課題が、そのまま数字に表れているのではないかと思っています。

PMCの合格者数は、累計で見ると毎年コンスタントに増えており、改定前の駆け込み需要なども加わって全体としては右肩上がりです。一方、プログラムマネジメント資格であるPMSを見ると、当初は増加していましたが、最近は完全に横ばいになっています。P2Mの中でも、最も本質的でPMらしい部分はプログラムだと思っています。だからこそ、ここをどう広げていけるかが課題です。

私は普段、講座を通じてさまざまな方にP2Mを勧めています。PMCは「すぐ役立つ」「よい勉強になる」と評価されて受講されることが多いですが、その後にPMSを受ける方が少ない状況です。自分のアプローチに問題があるのか、それとも構造的な課題なのかを考えています。

一つの仮説として、プロジェクトを学びたい人とプログラムを学びたい人は、そもそも対象層が異なるのではないかと思っています。プロジェクトは現場や中間層が中心ですが、プログラムはトップ層・営業・管理職など、職種や立場が変わってきます。PMSを勧めたい対象層はそもそも多忙で、PMCまで学ぶ余裕がなく、「プログラムだけ学びたい」という声もあります。

ただ、プログラムを理解するにはプロジェクトの理解が前提ではないか、という議論もあります。「プログラムマネジメント単体の資格があってもよいのではないか」と考えたこともありますが、プロジェクトを学ばずには成立しないという指摘も受けています。今はその考えを一旦保留していますが、現場で感じている問題意識として共有しました。

 

⇒今のご質問は、非常に本質的だと思っています。中島さんの疑問もよく分かります。プロジェクトマネジメントとプログラムマネジメントは、実際には対象層が異なります。ですから、分けて考えるという発想も一つの選択肢です。本来は両方を理解しているのが理想ですが、どう設計するかはPMAJとしての考え方の問題でもあります。

今起きているのは、活用する階層が違うにもかかわらず、同じパターンで理解させようとしていることです。特にプログラムマネジメントはまだ成熟していない領域です。だからこそ、分かりやすい形に落とし込み、テンプレートなどにつなげていけば、理解は進むのではないかと思います。ビジネスモデルやプリンシプルが整理されたことで前進はしましたが、さらに発展できる余地はあります。

 

⇒専門資格として分けるという考え方もあります。実際、PMIはプロジェクト・プログラム・ポートフォリオをそれぞれ分けています。しかし、私はそこに違和感を持っています。P2Mの価値は包括性にあります。下も見なければならないし、上も見なければならない。プロジェクトを実行する側は上位の意図を理解する必要があり、上位にいる人は現場を理解していなければなりません。戦略から実行まで全体を見なければ、本質は理解できません。

重要なのは、自分がどの視点で物事を見ているのかを自覚することです。どのレイヤーに立っているのか。その全体性こそがP2Mの価値だと思っています。

もちろん、ボリュームの問題はあります。プロジェクトを理解したうえでプログラムに進むのは理想ですが、経営層などに初めて導入する場合は、むしろプログラムの視点から入った方が適切なケースもあると思います。

 

(フリーディスカッション)

・いま勉強しているもので、少し参考になるかもしれないと思っているのが、Business Architecture Guildが出しているBIZBOKです。ビジネスアーキテクチャーのボディ・オブ・ナレッジです。

かなり分厚く、どんどん拡張されていく体系なのですが、面白いのは入口の設計です。まずシンプルガイドから入る構造になっています。全体像をつかむための要約版があり、そこから必要に応じて詳細な本体へ進んでいく。つまり、

まず理解のハードルを下げる → 全体像を掴む → 必要な深さだけ潜る

という順番になっています。この構造があるから、「なるほど」と腹落ちしやすい。深く知りたい人はさらに掘り下げればよいし、全体を活用したい人は概要だけでも十分に使えます。

この「シンプルガイドから入る」設計は、P2Mの普及を考えるうえでもかなり示唆的だと感じています。

 

・自社では60名ほどの資格者を育成しました。PMCを受けた段階で、プログラムマネジメントの内容もある程度見えてくるんですね。そのため、PMCが終わると「大体分かったから、もういいかな」という反応が多かった、というのがまず一点あります。もう一点は、経営者に向けてどう届けるかという観点です。経営者教育には別に学ぶべき領域が多くあり、プログラムマネジメントが最もストレートにフィットするのは経営者本人というより、その直下にいる上級層――本部長クラスではないかという感覚を持っています。事業をどう回すかというレイヤーに最も関係するのはその層であり、大きなミッションや絵を描く人がいて、それをビジネスとして具体化していく際に、本部長クラスが戦略に落とし込む役割を担う。そう考えると、プログラムマネジメントが最もフィットするのは本部長や経営企画・経営戦略といった機能ではないかという整理になります。

実際、幹部研修で実施した際にも、その層が最もよく理解してくれました。役員・本部長クラスと一緒に同じフレームを使い、各本部の展開図を作り、それを時系列に分解していく。すると、皆さん自分の仕事に当てはめてきちんと作ってくるんですね。自分の業務に接続できる。そこがフィットするポイントだと感じました。

 

⇒なお、先ほど「プロジェクトマネジメントを学んだ上でプログラムを学んだ方が理解しやすい」と申し上げましたが、これは少し言い過ぎかもしれません。P2Mのプロジェクトマネジメント章だけでプロジェクトマネジメント全体を理解するのは難しい面があり、その点はPMIの知識体系、特にPMBOK第6版や実務ガイドの方が理解には適していると感じています。

一方で、プロジェクトをやりながらプログラムを理解する、あるいはプログラムを設計しながらプロジェクトを見るという相互関係は不可欠です。だからこそ、P2Mの体系におけるプログラムの位置づけは非常に重要だと考えています。

 

・プログラムの実務ガイドを、先ほど出ていた「シンプリファイする」という方向で整理する価値はある気がしています。ただ、それをどこまで厳密な体系にする必要があるのかという点は、少し考えどころだと思っています。

以前、International Project Management Associationの話を聞いたときに、強く印象に残ったことがあります。「プロジェクトマネジメントはアートなのか、サイエンスなのか」という議論です。欧米、とくにアメリカは長らくサイエンスとして捉え、プロセスを洗練し、効率性を追求してきました。プロジェクトマネジメントを技術体系として整理し、テクノロジーとの融合を図っていくアプローチです。一方、ヨーロッパでは「マインドセット」としての側面が重視されます。つまり、方法論やプロセスというより、姿勢や思考様式としてのPMです。その視点を聞いたときは衝撃的でした。

 

そこから改めてP2Mを読むと、アプローチが明確に異なっていることに気づきます。サイエンス寄りの体系と、アート寄りの体系。どちらが正しいというより、文化的な親和性の違いがあります。現実には、グローバルで仕事をする以上、PMIの体系を避けて通ることはできません。資金調達・国際案件・共同プロジェクトなどでは共通言語として機能しているからです。ヨーロッパ側も、本音では距離感を持ちながらも、実務上は使わざるを得ない状況です。

その中で日本企業の親和性を考えると、むしろ東南アジアの文脈に近い部分があると感じています。完全なグローバル標準を志向するのではなく、ある程度クローズドな標準として整理する。日本企業が関係性を持つ東南アジア圏との実務連携を見据えた形で、共有可能な枠組みに落とし込む。そのレベルでの「使える標準」を持たないと、実務への定着は難しいのではないかという感覚を持っています。

 

・英語バージョンは必要だと思っています。必要というより、もう2ヶ月程度のスパンで出さなければならない状況です。現段階でも、形にできそうな素材はあるはずです。一から全部を作り込むというより、翻訳ベースで進めることも考えています。ただ、きちんと取り組もうとすると、それなりに費用がかかるという見積もりが過去にもありました。

1冊の本として全部を出す必要はないと思っています。ダウンロードできる形で、第1部だけでも構いません。あるいは第2部でも。特にプログラムの部分はある程度含める必要がありますし、それに加えて価値評価の部分も入れておかないと意味がありません。

作ること自体は、それほど難しくないと思っています。問題は、それをどうやってネットワークの中で見せていくか、関係する企業にどう提示するかです。そこが最大のポイントになります。プロジェクトマネジメントの領域は、そうした見せ方が非常に上手です。実際、以前も最初の段階あるいは途中の段階で、英語版が先に出ていたケースがありました。グローバルPMチームが関わって進める中で、海外に対してどう発信するかというテーマはずっと検討され続けてきました。

田中先生のような方からの指導を受けているご縁もあり、そうしたつながりはあります。いきなり大きく展開することは難しいにしても、地道に進めていく基盤はあります。清水先生やお小原先生も会議などで発表を重ねておられ、一定の形で外に発信していく動きはすでに始まっているという認識です。

 

・本日は当麻先生に、非常にためになるご講演をありがとうございました。ペンタスロンモデルについて、かなり理解が深まりました。私自身も、グローバルPMや藤沢さんと同じP2M普及推進部会で活動しているので、皆さんがお話しされている課題は強く認識しています。

どうやって広めるか――ここが本質だと思っています。この分厚いガイドブックをいきなり出しても読まれないのは当然です。いかに読んでもらえる形にするか。残念ながら、まだその観点が弱い状況です。

特に東南アジアや日本発で広めるなら、英語版が必要になります。ただ、今の日本語版をそのまま翻訳すればよいという話ではありません。全部を翻訳するとコストも大きくなりますし、結局は作り直しになります。海外に広めるには、どの章を出すのか、どの内容を入れるのかを再設計しなければなりません。翻訳すれば広まる、というレベルの話ではないと思っています。

 

もう一つ重要なのはターゲットです。どこに広めるのか。目的を定めない限り、読みやすくするアイデアも出てきません。森さんのお話にもありましたが、ITスタートアップなど課題が明確な領域に向けたアプローチは一つの方向性だと思います。また、業界別にフレームを整理し、どの層・どの立場に刺さるのかを見極める必要があります。そのうえで政策系の機関に持っていく。そうでなければ「現状では難しいですね」で終わってしまいます。参考になるガイドやテキストがあれば、「これをベースに仕事を進めるべきだ」という判断につながる可能性があります。私も今後協力していきたいと思っています。

 

それから、ペンタスロンモデルについて最近気づいたことがあります。デザインの展示を見に行った際に、イタリアのデザイナーBruno Munariのプロセスが紹介されていました。彼がゼロからアイデアをまとめ、製品にしていくまでのプロセスが可視化されていたのですが、それを見ると、人間がゼロから価値を形にするプロセスは昔から本質的に同じだと分かります。

問題の定義から始まり、構成要素の整理・調査・データ収集・分析・創造・素材と技術の選択・実験・プロトタイピング・テスト・実証・図面化・最終的なソリューション化という流れです。これはまさにデザイン思考であり、P2Mの3Sモデルにも近い構造です。20世紀前半の人物である彼が、その時代からすでに同様のアプローチを取っていました。

つまり、ゼロから価値を創る際のプロセスには共通構造がある。この基本を押さえたうえでプロジェクト・プログラムマネジメントへ応用していく。この方向性が効果的なアプローチになると、改めて感じました。

 

・少し当麻先生のご意見を伺いたくて、共有させていただきます。1ヶ月ほど前に松山に行った際の話です。松山の坊っちゃん関係の記念館を訪れたところ、「革新」をテーマにした展示がありました。

ちょうど明治維新の頃、1867年前後に生まれた世代――正岡子規や夏目漱石と同世代――についての展示で、そこにはこのような趣旨のことが書かれていました。

明治の改革を実行したのは地方の若者であって、年長の既成層ではない。改革や革新は必ず新しく登場した若者の仕事であり、既存の立場にいる年長者はむしろ進歩を妨げる側に回ることが多い。革命や改良が、長年社会の中心にいた人々によって主導された例はほとんどない。

これを見て、本当にそうなのかと感じ、写真に収めてきました。つまり、「イノベーションは年配者にはできないのか」という問いです。

 

⇒私は、そんなことはないと思っています。一つ考えられるのは、経験を積むことで専門家バイアスがかかるという点です。自分の専門領域への確信が強くなるほど他の視点を受け入れにくくなり、視野が狭くなる可能性はあります。特に、世代の違う価値観を理解しづらくなることは起こり得ます。

ただし、そこに対してオープンであれば、年齢に関係なくイノベーションは可能です。時代背景もあります。明治維新期の若者は経験が少ない分、怖いもの知らずで挑戦できた。その大胆さが新しい発想につながった側面はあるでしょう。逆に言えば、経験が少ないことが挑戦を可能にする場合もある。だからこそ、我々自身もチャレンジングであり続けるべきだと思っています。

 

<総括コメント>

時間も押してまいりましたので、まとめのコメントを一言ずついただいてクローズしたいと思います。

 

・ありがとうございました。大変勉強になりました。基本的なところを改めて学問的に整理し、復習してみたいと思います。

 

・今回のテーマを通じて、今後P2Mをどのように普及していくのか、どのような形で、どの対象に届けていくのか、さまざまな示唆を得ることができました。例えば、会員向けの形で普及させる方法もあるのではないかといったことも考えました。日本にとってイノベーションは不可欠です。その必要性を社会に伝え、その文脈の中でPMを実践する価値を自然に理解してもらえるようなストーリーを作っていければと思います。ありがとうございました。

 

・本日はありがとうございました。また参加者の皆さまからも貴重なご意見をいただき、感謝しております。今後も継続的に活動を進めてまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 

・最後はマインドだというお話、まさにその通りだと思いました。新規事業を振り返ると、最後に頼りになったのはスキームでもフレームでもなく、パッションと粘り強さでした。それをいかに理論に乗せられるか、そこが今の自分の関心です。ありがとうございました。

 

・ペンタスロンモデルについて、単なるフォーマットではなく「理想形」であるという点が、今日の最大の学びでした。各要素を機械的に当てはめるのではなく、全体のバランスが取れているかを立ち止まって確認するための視座として活用できる。その理解が得られたことが非常に大きかったと感じています。ありがとうございました。

 

・今日は特に学問的な側面で多くの学びを得ることができました。私自身、普及推進の立場としてPMAJとも関わっていますが、この枠組みで捉えることで全体像がより明確に見えてくるという点は非常に重要だと感じました。最終的には、熱意と綿密な積み上げの両方が必要です。そして、前に進む人と、それを支える人の両方が不可欠です。私はシニアの立場ですので、これからは走る側というより支える側として、微力ながら貢献していければと思っています。ありがとうございました。

 

・皆さまからも様々なお話をいただき、感謝しております。PMを広げていく実行部隊として、本日いただいた多くのご意見を参考にしながら、しっかりと普及に取り組んでいきたいと思います。引き続き、皆さまからご指導いただければ幸いです。ありがとうございました。

 

・PMAJのメイン商品はやはりP2Mしかないと思っています。P2Mでしっかり差別化し、それを普及推進していくことが、PMAJの評価にもつながり、ひいてはPM全体の価値向上にもつながるはずです。本日出たさまざまなご意見を踏まえ、引き続きPM普及推進に取り組んでまいりますので、ぜひ今後もご参加いただき、「こうした方が良いのではないか」「こういう取り組みが必要ではないか」といったアイデアをお寄せいただければと思います。ありがとうございました。

 

・先生にはいつも学びの機会をいただいており、来月はデザイン思考についてもご指導いただく予定がありますので、引き続きしっかり学んでいきたいと思います。本日は、皆さんの実務での活用に関するお話も伺うことができました。改訂版を学ぶにあたって何が変わったのか、何を伝えていくべきなのかという点と併せて、PMのガイドブックが共通理解・共通言語として広がっていくよう、自分自身も設計に関わっていければと考えています。皆さんとの対話を通じて、次に取り組むべきことを見出していきたいと思います。ありがとうございました。

 

・新たな学びが多くありました。今回のP2Mにおいて、ペンタスロンモデルは中核をなす部分だと思っています。私自身もこれまで教える立場で扱ってきましたが、従来のP2M第3版は目次構造をそのまま上位概念化した形だったため、比較的分かりやすく説明できていました。一方で、このペンタスロンモデルについては、自分としては理解しているつもりでも、初めて見る方には直感的に分かりにくい部分があると感じています。実際に教える立場になると、伝える難しさと受け手側の理解の壁を強く意識するようになりました。今後は、いかに分かりやすく伝えるかを工夫していく必要があります。

また、改めて実感したのは、多様性がなければイノベーションは生まれないという点です。若い世代、異なる専門領域、海外の視点など、さまざまな立場の人が関わりながら共に考える場が重要です。知識を持つ人だけで議論するとどうしてもバイアスがかかります。だからこそ、多様な人が参加するワークショップのような場を設け、デザイン思考的なアプローチで共創していくことが有効ではないかと感じました。

 

・(事務局)

本日の会合はプログラムミーティングとして企画しました。おかげさまで多様なご意見を伺うことができ、大変参考になりました。今後もこうしたディスカッションを繰り返すことが、P2Mの実践ガイドにつながっていくと思います。P2M資格者は1万数千人いますので、その資格者を対象に改訂4版のフォローアップ研修として実施し、後半に今回のようなディスカッションを行う形を継続することで、さらに多くの問題やアイデアが見えてくると思います。次はP2M普及推進部の藤澤さんを中心に進めていただければ、先は明るいのではないかと思っています。

 

・(当麻先生)

本日は皆さんお集まりいただきありがとうございました。オンラインの方もありがとうございました。ペンタスロンモデルは私の得意な専門分野ではなかったため、にわか勉強で臨んだ部分もあり、分かりづらいところもあったかと思います。皆さんと一緒にこれを理解しながら、P2Mらしい新しい何かへとつなげていきたいと考えています。

P2M事業モデルはペンタスロンをベースに構築しましたが、確かにさまざまな要素を加えすぎて複雑になってしまいました。ペンタスロンは5つのブロックだけとシンプルです。そこにサービスモデルを加え、矢印や接続線を加えていく中で、説明なしには分かりづらいものになってしまったかもしれません。いかにシンプルに整理するか――それが教えやすさにもつながりますし、次の課題だと感じています。また皆さんと一緒により良いものを作っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。 

 

 

以上

 


<注>

資料は改訂される可能性がありますのでご了承ください。